野いちご源氏物語 〇二 帚木(ははきぎ)
頭中将(とうのちゅうじょう)様が続きを(うなが)されたので、お話が再開された。
中流(ちゅうりゅう)の話はそんなところで、次は上流(じょうりゅう)の話でございます。上流の家に今ひとつな姫君(ひめぎみ)がいらっしゃったら、なぜこんなふうに育ってしまわれたのかと残念な気がいたしますね。かと言って上流の家に完璧(かんぺき)な姫君がいらっしゃったら、それはまぁ上流の家なのだから当然だろうなんて思われてしまう。上流の家が姫君をお育てになるのは大変でございましょうな。

あとは、超上流(ちょうじょうりゅう)というお(いえ)もございましょうけれど、私などにはまったく分からない世界でございますので、そちらについては何も申し上げられません」

まだ恋愛(れんあい)博士(はかせ)はお話しつづけになる。
「私の理想の女性像(じょせいぞう)をお話ししてもよろしいでしょうか。それはたとえば、荒れた屋敷(やしき)にひっそりと住んでいる思いがけない美人です。きっと父親はみっともないほど太っているのですよ。兄なんかは意地悪顔でしょうね。娘もたいしたことはないだろうと思っていると、これがびっくり、なかなか美しくて女性としての教養(きょうよう)もあるのですよ。

いえ、実際は美しさも教養もたいしたものではないのかもしれません。でも意外性(いがいせい)がありますから、魅力(みりょく)を何倍にも感じるのです。完璧な女性というのとは違いますが、これはこれでよいものでございましょう。具体的にどこの家の姫かとは申しませんが」

そうおっしゃりながら、一緒にいらっしゃったもう一人の貴族の方を意味ありげにご覧になる。
その方は、
「私の妹の話ではないか」
と思い当たったけれど、恥ずかしがって何もおっしゃらなかったわ。

源氏の君は、元服(げんぷく)前に内裏でたくさんのお(きさき)様たちをご覧になった経験から、
「いやいや、上流にも完璧な女性などそうはいない」
と思っておいでのようだったわね。
ご自分のお部屋でくつろいでいらっしゃるときだったから、白いお着物の上に美しいお着物をゆったりと羽織(はお)っておられたわ。
肘置きに寄りかかって優雅(ゆうが)に座っていらっしゃるお姿がとても美しいの。
もし女性であったらどれほど美しい姫君だろうと思ってしまったほどよ。
こんな源氏の君のお相手には、超上流の姫君でも足りないような気がしたわ。
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