〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 キックボクシングジムの詳細をメモした真紀は立てこもり事件の話題を早々に切り上げた。元々、愁の聴取の本題は立てこもり事件ではない。

 真紀は茶封筒から取り出した書類を愁に差し出した。彼女が見せた紙切れは愁の戸籍に関する書類だ。

「あなたのお母様、木崎凛子さんは5年前に失踪宣告を受けて死亡扱いになっています。凛子さんは夏木グループの系列ホテル内のレストランでウエイトレスとして働いていましたが、85年にレストランを退職した1年後に未婚であなたを出産されている。戸籍の父親の欄は空白となっていますが、あなたの父親は夏木十蔵ですか?」
『ええ、俺の父親は夏木十蔵です。母は夏木十蔵の愛人でした』

愁は夏木十蔵との血縁関係をあっさり認めた。DNA鑑定でもすれば簡単に知れてしまう事実を隠しても仕方がない。

「お母様は何故失踪を? 夏木会長との間に揉め事があったのですか?」
『母は男好きな人でした。失踪前には母と夏木十蔵との関係はとっくに冷えきっていましたし、その頃の母はホスト遊びに夢中だった。お気に入りのホストと駆け落ちでもしたんだと思っています』
「警察にはあなたの名前で捜索の届けが出されています。夏木十蔵の人脈を駆使すれば、お母様の捜索も可能だったのでは?」
『父は最初から母を捜そうともしなかった。来る者拒まず去る者追わず、夏木十蔵とはそういう人間なんです』

 自分が殺した母親の話を愁は淡々と語る。どこまでが真実でどこからが偽りか、美夜だけが愁の真実を知っていた。
愁の母親は今この瞬間も、鎌倉にあるという夏木家別邸の庭に埋まっている。

「……話題を変えます。10月の中頃、群馬県の山中で男性の白骨体が見つかりました。DNA鑑定の結果、白骨化した遺体はジャーナリストの笛木周平さんと判明しています。笛木さんは9月から行方がわからなくなっていました。頭蓋骨には固い物で殴打されてできた陥没の痕跡があり、殺人事件と判断しました。犯人は笛木さんを殺害後、遺体を群馬の山に遺棄したのです」

 真紀は笛木周平の顔写真を机に置いた。愁は写真を見下ろすだけで何も言わない。

「笛木さんは10月に殺害されたアイドルの小柴優奈の交際相手を調べていました。彼は失踪する直前、友人に小柴優奈に関する写真を預けています。こちらがその写真です」

 笛木周平の顔写真の隣に、笛木が撮影した小柴優奈と男の写真が並んだ。
真紀に笛木周平の失踪と優奈の交際相手の情報提供をした人物は、美夜も対面した週刊ルポルタージュの桑田記者だった。

「小柴優奈の隣にいる男性に見覚えはありますか?」
『それを俺に訊《き》く意味がわかりませんね』
「質問の仕方を変えましょう。この男性は優奈からは“ケイ”と呼ばれていました。ケイと優奈は男女の関係にあり、優奈は殺される直前もケイと会う約束をしていました。ケイは、あなたの身近にいる人に容姿が似ていると思いませんか? 例えば、夏木会長の養子の夏木伶さん……とか」

 木崎愁がジョーカーだと証明できる証拠は、現時点ではないに等しい。
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