〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 批判や中傷コメントを他人に送りつける人間のアカウントのほとんどが、アイコン設定のない、フォロワーもいない捨てアカウントだ。

素性を公表する度胸もない人間が、平気で「イジメっ子は死ね」「お前に生きてる価値はない」とメッセージを送りつけてくる。

果たして今はどちらが“イジメっ子”であり、“生きてる価値”がないのか、奴らも馬鹿な頭で一度考えてみるといい。

 これ等の中傷のメッセージを舞に送りつけた人々を、伶は一人残らず殺してやりたくなった。SNSに個人特定の痕跡を残している者に対しては、愁に止められなければ居所を突き止めて殺しに向かっていた。

 愛佳との無駄なデートから帰宅した伶は、自室にいる舞に声をかける。けれど部屋の外から何度声をかけても舞は応答しない。
一言断って舞の部屋に入室した伶は、ベッドの側で立ち止まった。

ベッドに寝そべる舞の手には、ちっぽけなこの世が握られている。スマートフォンに凝縮された小さな小さな世間が一斉に舞を責め立て、牙を剥いて襲いかかっていた。

『舞、今はスマホを見るのは止めよう』

 舞のツイッターとインスタグラムのアカウントは非公開にして、どちらのSNSもログアウト状態にある。これ以上、誹謗中傷の汚い言葉の刃で舞を傷付けさせないための苦渋の措置だ。

 だが、SNSが使えなくても舞はスマホを手放さなかった。昨日も一昨日も、舞は隙あらばスマホを手にして立てこもり事件のネットニュースのコメント欄や匿名掲示板を感情のない瞳で閲覧している。

まるで自分で自分をわざと傷付けているみたいだ。そうやって、心を静かな死に向かわせる舞の自傷行為は見ていられない。
こうなればスマホを取り上げる措置も検討しなければならないだろう。

『……舞、お願いだ。もう自分を傷付けるのは止めてくれ』

 伶は舞の傍らに膝をついた。舞の手から優しく没収したスマホは伶の手で電源をオフにされ、テーブルを滑る。

スマホを取り上げられても舞は無言だった。虚ろな二つの瞳が伶の姿を認知した時、封じていた心の叫びが決壊した。

「お兄ちゃん……舞どこが悪かったのかなぁ……なんで皆して舞を責めるのかなぁ……。だって、先生もクラスの子達も皆、ゆきちゃんを助けなかったよ? なんで舞だけが悪く言われるの……?」

 ポロポロと溢れる雫が舞の頬に添えた伶の手を濡らす。肩を震わせて咽び泣く舞の頭を彼は抱き込んだ。

せめてここだけは舞の安息の場所になればいいと願って、腕の中に舞を閉じ込める。
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