〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
触れた父の身体は温かい。意識を失ってから10分も経っていないように思う。
『……会長、会長』
愁は夏木の身体を軽く揺さぶり、耳元で呼び掛けた。小さく呻いた夏木はまだ生きていた。
閉じた瞼が薄く開くと同時に、激しく咳き込む夏木十蔵の首もとにはロープの食い込みが赤い筋となって残っている。
『伶がやったんですね』
『……ああ』
咳き込む夏木を支えてソファーに寝かせた。ワインボトルの隣に寄り添う水差しの水をグラスに移し、ひとまず夏木に水を飲ませる。
最後に伶は躊躇したのだろう。意識的か無意識かは定かでないが、一瞬の躊躇がロープの絞めつけを甘くした。
『伶を見つけて始末しろ』
『三途の川の手前まで行って馬鹿になりましたね。伶が消えれば、警察は真っ先に俺と会長に嫌疑を向ける。この隠し部屋も調べられたらまずいですよね』
アコーディオンカーテンで仕切られたリビングの向こう側には、銃の保管部屋がある。愁は指紋認証と虹彩《こうさい》認証を通り、パスワードを打ち込んで隠し部屋の扉を開けた。
『この辺で諦めたらどうです? どう足掻いてもあなたはカオスのキングにはなれない』
『口を慎め。お前も伶も……誰に向けて物を言っている』
『父親に向けてです』
保管部屋に入室した彼は淡々と銃に弾を装填する。
愛用のワルサーPPKの装弾数は、薬室の弾を入れて計八発。マガジンには七発分の弾が装填できるが、愁がマガジンに入れた弾は五つだった。
『貴嶋佑聖《キング》が何故、俺をジョーカーと名付けたのか、やっとその意図がわかった気がします』
アコーディオンカーテンの内側で愁は慣れた手つきで銃の遊底《ゆうてい》をスライドさせ、安全装置を解除した。
夏木はソファーに仰向けになって寝ていた。生死の境を彷徨ったばかりでは身体も自由に動けまい。
無防備な獲物は自分の命の本当の終わりに気が付かない。哀れで醜い、裸の王様。
『いつか俺が“こう”する未来を、キングは見通していたのかもしれませんね』
夏木十蔵の頭部めがけて愁は引き金を二度引いた。夏木に撃ち込んだ弾数は、愁の恨みと伶の恨みの二発分。
レクイエムが死者を前にして虚しく響く。夏木十蔵には偉人のレクイエムを捧げる価値もない。
殺した父親の遺体を彼は無言で見下ろした。頭から血を噴き出す父を見ても何も感じない。
ここにあるのは虚無と解放。こんなものか、とひとりごちして愁は夏木十蔵の亡骸に背を向けた。
『……会長、会長』
愁は夏木の身体を軽く揺さぶり、耳元で呼び掛けた。小さく呻いた夏木はまだ生きていた。
閉じた瞼が薄く開くと同時に、激しく咳き込む夏木十蔵の首もとにはロープの食い込みが赤い筋となって残っている。
『伶がやったんですね』
『……ああ』
咳き込む夏木を支えてソファーに寝かせた。ワインボトルの隣に寄り添う水差しの水をグラスに移し、ひとまず夏木に水を飲ませる。
最後に伶は躊躇したのだろう。意識的か無意識かは定かでないが、一瞬の躊躇がロープの絞めつけを甘くした。
『伶を見つけて始末しろ』
『三途の川の手前まで行って馬鹿になりましたね。伶が消えれば、警察は真っ先に俺と会長に嫌疑を向ける。この隠し部屋も調べられたらまずいですよね』
アコーディオンカーテンで仕切られたリビングの向こう側には、銃の保管部屋がある。愁は指紋認証と虹彩《こうさい》認証を通り、パスワードを打ち込んで隠し部屋の扉を開けた。
『この辺で諦めたらどうです? どう足掻いてもあなたはカオスのキングにはなれない』
『口を慎め。お前も伶も……誰に向けて物を言っている』
『父親に向けてです』
保管部屋に入室した彼は淡々と銃に弾を装填する。
愛用のワルサーPPKの装弾数は、薬室の弾を入れて計八発。マガジンには七発分の弾が装填できるが、愁がマガジンに入れた弾は五つだった。
『貴嶋佑聖《キング》が何故、俺をジョーカーと名付けたのか、やっとその意図がわかった気がします』
アコーディオンカーテンの内側で愁は慣れた手つきで銃の遊底《ゆうてい》をスライドさせ、安全装置を解除した。
夏木はソファーに仰向けになって寝ていた。生死の境を彷徨ったばかりでは身体も自由に動けまい。
無防備な獲物は自分の命の本当の終わりに気が付かない。哀れで醜い、裸の王様。
『いつか俺が“こう”する未来を、キングは見通していたのかもしれませんね』
夏木十蔵の頭部めがけて愁は引き金を二度引いた。夏木に撃ち込んだ弾数は、愁の恨みと伶の恨みの二発分。
レクイエムが死者を前にして虚しく響く。夏木十蔵には偉人のレクイエムを捧げる価値もない。
殺した父親の遺体を彼は無言で見下ろした。頭から血を噴き出す父を見ても何も感じない。
ここにあるのは虚無と解放。こんなものか、とひとりごちして愁は夏木十蔵の亡骸に背を向けた。