〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 雪枝と彼女の両親は小山真紀が保護に向かった。雪枝達は五反田の自宅から今夜中に警察が用意した施設に移動させる手筈《てはず》だ。

 新たな情報が上野のスマホに入った。相手と二言三言のやりとりを交わして通話を切った上野の表情は険しい。

『神奈川県警からの連絡だ。鎌倉に住む夏木十蔵の妻の朋子も自宅で殺されていた。頭を撃ち抜かれていたそうだ。この状況だと十中八九、木崎の仕業だな』
「私と通話している時は運転中のようでした。電話を切る直前に、舞ちゃんを解放してあげたいと……。彼は、夏木家と舞ちゃんの繋がりを完全に絶ち切りたかったのかもしれません」

 電話の最後に愁が呟いた『ごめんな』が頭から離れない。
木崎愁の行方は追えていない。愁のスマートフォンの電源は切られて一向に連絡がつかず、鎌倉の別邸にも愁の車はなかったそうだ。

 トロイの木馬がジョーカーの役割。そんな悲しい結末を覚悟して彼はこれまで……。
愁を想うと心が裂けて血だらけになる。赤い血の滲む心の痛みを、美夜は捜査で誤魔化した。

 室内には金属が擦れる音が響いている。長時間耳にしていると頭が痛くなりそうな甲高い金属音が止んだ直後、リビングの一角に垂れ下がるアコーディオンカーテンの内側から捜査員が駆けてきた。

『一課長、扉開きました』
『お疲れさん』

音の正体は電動工具の作動音だ。アコーディオンカーテンの向こうには重厚な鉄の扉があり、扉を開けるには予め登録された虹彩認証と指紋認証、パスワードがなければ開けない仕様だった。
厳重なセキュリティで守られたこの部屋には、“何”かがある。

 電動工具を使用して蝶番《ちょうつがい》が破壊された開かずの扉が、無理やり口を開かされて美夜達を迎え入れた。
上野、美夜、九条の順に秘密の部屋に入室する。入ってすぐに彼らはその部屋の目的を理解した。

 六畳程度の広さの室内にところ狭しと並ぶ棚にはアタッシュケースが整列する。手近なケースを引き抜いた上野は、開いたケースの中身を見て皮肉混じりに呟いた。

『夏木十蔵はこの部屋に武器を隠し持っていたのか。警察の保管庫でもここまでの種類は揃えていない。まるで武器商人だな』

 棚とケースには番号と銃の名称を記したシールが貼ってある。銃の種類もざっと見た限りライフル、拳銃、散弾銃とあり、拳銃だけでもベレッタ、グロック、トカレフやマカロフなど、メジャーな拳銃は一通り揃っていた。

美夜は棚の前に放られた空のアタッシュケースを拾い上げた。
ケースに貼られた名称と同じ銃がこのケースに入っていたのなら、不在の銃はワルサーPPKで間違いない。木崎愁の愛用銃だ。

『木崎は銃を所持して逃走してる。早く見つけないと無関係な人間が巻き添え食らうぞ』
「一般人相手に乱射する人じゃない。あの人は、殺しのターゲット以外の不要な殺人はしない人だから」

 九条にはそう諭したが、現状、愁は銃を所持したまま姿を消している。夏木十蔵に二発、朋子に一発、愁の銃には残り何発の弾が入っている?
< 140 / 185 >

この作品をシェア

pagetop