〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
刑事の日常は捜査、逮捕、被疑者の取り調べ、検察への送検手続き、また次の捜査の繰り返しだ。
今日は徳島県で逮捕された国本和志が警視庁に移送されてくる。国本の逮捕によって、夏木伶《エイジェント》に復讐を頼んだ依頼者の逮捕は残り三人となった。
美夜の仕事はエイジェント関連の聴取に限らず、別件の事件の聴取や手続きも山積みだ。次から次へと降ってくる仕事を普段通りこなす彼女の覚悟に気付く者はいない。
『神田ー。これやってくれー』
「自分で片付けて。私も担当分だけで手一杯」
『もう無理。もうパソコン打ちたくねぇ……』
「冬場の外での張り込みよりは、内勤の報告書作業の方がよっぽど楽だと思うよ?」
書類の作成作業に音を上げる九条もいつもと同じ。砂糖とミルクをたっぷり入れた甘いコーヒーを飲む真紀と子煩悩な杉浦が菓子片手に交わす家族談義も、捜査一課の日常風景。
時折、九条が同期の南田刑事の小言に噛みついて二人がいがみあう光景も、それを呆れた眼差しで傍観する多田真利子刑事と美夜のささやかな女同士の談笑も、日常のワンシーンに刻まれる。
東京の天気は昼過ぎまでは激しい雨が続くが、夕方から雨は止むとの予報だった。雲に隠れて見えない太陽が人知れず西の空に沈んだ直後、雨の音も弱まった。
帰り支度を始める刑事達の中で、捜査一課長の上野恭一郎も羽織ったコートの上からマフラーを巻いている。
『一課長、今日はもうお帰りですか?』
『鍋パーティーに呼ばれているんだ。あとよろしく。九条は報告書仕上げておけよ』
『任せてください。お疲れ様でした』
捜査一課のフロアを去る上野は、サンタクロースとクリスマスツリーが描かれたおもちゃ屋の袋を二つ抱えていた。上野の黒いコートがもしも赤ければ、まさにプレゼントを届けるサンタクロースだ。
『一課長って独身でしたよね。一緒に鍋パーティーする相手がいたんだ。あの袋は子どもへのプレゼント?』
「鍋パーティーの招待は、一課長にとって娘夫婦同然の人の家だからね。袋はその子ども達へのクリスマスプレゼントでしょう」
事も無げに言い放った真紀の一言が、パソコンのキーを打つ九条の手を止めた。
『娘夫婦……え? 隠し子?』
「馬鹿ねぇ。一課長が娘みたいに可愛がってる子って意味。その子の旦那が、偶然にも木崎愁の高校の先輩だったの」
九条と違って、愁の名が出ても美夜はキーを打つ手を休めない。黙々と報告書を作成する美夜の頬に隣席の九条の視線が突き刺さった。
「指名手配のニュースを見て連絡くれたんだって。もちろん一課長は、彼らが木崎を匿《かくま》ってると疑ってるわけじゃなく、鍋パーティーついでに高校時代の木崎の話を聞かせてもらいにね。刑事として木崎の半生を知っておきたいって一課長は言ってた」
愁の高校の先輩とは、文化祭の脚本作りでロミオとジュリエットの小説を貸してくれた先輩か?
それとも別の先輩かもしれない。美夜でさえ愁の交遊関係はろくに知らない。
今日は徳島県で逮捕された国本和志が警視庁に移送されてくる。国本の逮捕によって、夏木伶《エイジェント》に復讐を頼んだ依頼者の逮捕は残り三人となった。
美夜の仕事はエイジェント関連の聴取に限らず、別件の事件の聴取や手続きも山積みだ。次から次へと降ってくる仕事を普段通りこなす彼女の覚悟に気付く者はいない。
『神田ー。これやってくれー』
「自分で片付けて。私も担当分だけで手一杯」
『もう無理。もうパソコン打ちたくねぇ……』
「冬場の外での張り込みよりは、内勤の報告書作業の方がよっぽど楽だと思うよ?」
書類の作成作業に音を上げる九条もいつもと同じ。砂糖とミルクをたっぷり入れた甘いコーヒーを飲む真紀と子煩悩な杉浦が菓子片手に交わす家族談義も、捜査一課の日常風景。
時折、九条が同期の南田刑事の小言に噛みついて二人がいがみあう光景も、それを呆れた眼差しで傍観する多田真利子刑事と美夜のささやかな女同士の談笑も、日常のワンシーンに刻まれる。
東京の天気は昼過ぎまでは激しい雨が続くが、夕方から雨は止むとの予報だった。雲に隠れて見えない太陽が人知れず西の空に沈んだ直後、雨の音も弱まった。
帰り支度を始める刑事達の中で、捜査一課長の上野恭一郎も羽織ったコートの上からマフラーを巻いている。
『一課長、今日はもうお帰りですか?』
『鍋パーティーに呼ばれているんだ。あとよろしく。九条は報告書仕上げておけよ』
『任せてください。お疲れ様でした』
捜査一課のフロアを去る上野は、サンタクロースとクリスマスツリーが描かれたおもちゃ屋の袋を二つ抱えていた。上野の黒いコートがもしも赤ければ、まさにプレゼントを届けるサンタクロースだ。
『一課長って独身でしたよね。一緒に鍋パーティーする相手がいたんだ。あの袋は子どもへのプレゼント?』
「鍋パーティーの招待は、一課長にとって娘夫婦同然の人の家だからね。袋はその子ども達へのクリスマスプレゼントでしょう」
事も無げに言い放った真紀の一言が、パソコンのキーを打つ九条の手を止めた。
『娘夫婦……え? 隠し子?』
「馬鹿ねぇ。一課長が娘みたいに可愛がってる子って意味。その子の旦那が、偶然にも木崎愁の高校の先輩だったの」
九条と違って、愁の名が出ても美夜はキーを打つ手を休めない。黙々と報告書を作成する美夜の頬に隣席の九条の視線が突き刺さった。
「指名手配のニュースを見て連絡くれたんだって。もちろん一課長は、彼らが木崎を匿《かくま》ってると疑ってるわけじゃなく、鍋パーティーついでに高校時代の木崎の話を聞かせてもらいにね。刑事として木崎の半生を知っておきたいって一課長は言ってた」
愁の高校の先輩とは、文化祭の脚本作りでロミオとジュリエットの小説を貸してくれた先輩か?
それとも別の先輩かもしれない。美夜でさえ愁の交遊関係はろくに知らない。