〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
木崎愁の潜伏先を洗い出す過程で愁と男女の関係にあった女が何人も浮上した。
顔と身体を全身整形した歌舞伎町の人気風俗嬢、ヤクザの娘、ゴールデンタイムのドラマで頻繁に見かける三十代のバイプレーヤー女優など、女の交遊関係は世代、業界問わず幅広い。
愁と付き合いのある女の誰もが、愁のジョーカーとしての顔を知っていた。彼女達が愁に会う目的の半分は愁の仕事への情報提供。
けれど愁とビジネスの関係と割りきれていた女は、ほんの数人。大抵の女は無謀と悟りつつも愁に恋心を抱いていた。
愁が姿を消した8日以降、彼女達の元に愁は連絡を寄越していない。彼女達が密かに愁を匿っている形跡もなく、木崎愁の捜索は暗礁に乗り上げていた。
ブラインドの外は静かな闇に呑まれている。
最後の仕事を終えた美夜は、デスクに転がるボールペンや蛍光ペンをペン立てに戻し、いつも通り整理整頓をして席を立った。
「お疲れ様。先に帰るね」
『終わったなら手伝ってくれよ』
「私がそんな優しい女だと思う?」
『思いません……』
ひきつった笑顔の九条に片手を振って、彼女は警視庁の建物を出るその時までポーカーフェイスを貫いた。
雨の匂いが残る桜田通りを霞ヶ関駅に向けて歩く。
バッグには手錠が入っていた。個人に貸し出される手錠は識別番号で管理されているが、勤務時間外は手錠を携帯してはならないと決まりがある。
校則違反も遅刻も無断欠勤も無縁、九条が揶揄する優等生の道を歩んできた美夜の初めての規則違反。
窮屈な優等生からの脱却は、少しの罪悪と高揚が交ざった不思議な気持ちだ。
(ジュリエットって柄でもないけど……。親に隠れて悪いことをするってこういう気持ちなのかな)
修道僧ロレンスの導きで秘密の結婚式を挙げたロミオとジュリエットは、晴れて夫婦となった。しかしロミオはジュリエットの従兄であるティボルトを殺してしまい、街から追放される。
ロミオがいなくなり、親から別の男との結婚を強いられたジュリエットは嘆き悲しんだ。
悲しみのジュリエットはロレンスに助けを求める。彼はある計略をジュリエットに持ちかけたが、狂った歯車の軌道修正は時すでに遅かった。
ロミオとジュリエットの恋物語に幸せなエンドマークはつかなかったのだ。
この恋に幸せなエンドマークはつかないと彼と彼女は最初からわかっていた。
それでも……。
それでも離れたくなかった。
きっと、そう。理由はそれだけ。
顔と身体を全身整形した歌舞伎町の人気風俗嬢、ヤクザの娘、ゴールデンタイムのドラマで頻繁に見かける三十代のバイプレーヤー女優など、女の交遊関係は世代、業界問わず幅広い。
愁と付き合いのある女の誰もが、愁のジョーカーとしての顔を知っていた。彼女達が愁に会う目的の半分は愁の仕事への情報提供。
けれど愁とビジネスの関係と割りきれていた女は、ほんの数人。大抵の女は無謀と悟りつつも愁に恋心を抱いていた。
愁が姿を消した8日以降、彼女達の元に愁は連絡を寄越していない。彼女達が密かに愁を匿っている形跡もなく、木崎愁の捜索は暗礁に乗り上げていた。
ブラインドの外は静かな闇に呑まれている。
最後の仕事を終えた美夜は、デスクに転がるボールペンや蛍光ペンをペン立てに戻し、いつも通り整理整頓をして席を立った。
「お疲れ様。先に帰るね」
『終わったなら手伝ってくれよ』
「私がそんな優しい女だと思う?」
『思いません……』
ひきつった笑顔の九条に片手を振って、彼女は警視庁の建物を出るその時までポーカーフェイスを貫いた。
雨の匂いが残る桜田通りを霞ヶ関駅に向けて歩く。
バッグには手錠が入っていた。個人に貸し出される手錠は識別番号で管理されているが、勤務時間外は手錠を携帯してはならないと決まりがある。
校則違反も遅刻も無断欠勤も無縁、九条が揶揄する優等生の道を歩んできた美夜の初めての規則違反。
窮屈な優等生からの脱却は、少しの罪悪と高揚が交ざった不思議な気持ちだ。
(ジュリエットって柄でもないけど……。親に隠れて悪いことをするってこういう気持ちなのかな)
修道僧ロレンスの導きで秘密の結婚式を挙げたロミオとジュリエットは、晴れて夫婦となった。しかしロミオはジュリエットの従兄であるティボルトを殺してしまい、街から追放される。
ロミオがいなくなり、親から別の男との結婚を強いられたジュリエットは嘆き悲しんだ。
悲しみのジュリエットはロレンスに助けを求める。彼はある計略をジュリエットに持ちかけたが、狂った歯車の軌道修正は時すでに遅かった。
ロミオとジュリエットの恋物語に幸せなエンドマークはつかなかったのだ。
この恋に幸せなエンドマークはつかないと彼と彼女は最初からわかっていた。
それでも……。
それでも離れたくなかった。
きっと、そう。理由はそれだけ。