〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
そうして日浦が煙草を吸う姿を愁は初めて目にする。
人を殺した経験はあれども酒、煙草、女遊びやギャンブルとは縁遠そうな実直な会長第二秘書は、付き従っていた夏木十蔵が死してようやく本来の姿を愁の前で披露した。
『日浦が俺の考えを理解してくれるとは思わなかった』
『昔、世話になったボスと木崎さんが似ているんです』
『ボスって言うとあいつか、キングの側近の』
『はい。ボスも最後は木崎さんと似た選択をしていました。だからあなたとボスが重なるところがあって、つい援助をしたくなってしまったんです。それに俺は、夏木会長を主《あるじ》だとは思っていません。俺の主は生涯、ボスだけです。この煙草もボスが好んで吸っていた銘柄なんですよ』
追憶の瞳の日浦が吸う煙草は、赤と白のパッケージのマールボロだ。愁のウィンストンと日浦のマールボロの煙が同時に夜風に揺蕩《たゆた》って空に舞った。
日浦が今も変わらず慕う彼のボスは刑務所の檻の中。二度と会えないボスの面影を宿した煙草を、彼は旨そうに吸い込んでいる。
『木崎さんもやっと会長から解放されたんです。自分が思うままの選択をしてください』
『お前も人がいいな』
『ボスならどんな判断を下すか考えたまでですよ。ボスも俺と同じで、木崎さんを助けて送り出していたと思います』
日浦がボスと慕う男とは過去に数回、仕事現場で顔を会わせた。最後に男と会ったのは犯罪組織カオスが壊滅する前だったが、あの男も日浦同様に犯罪者のくせして面倒みの良い、物好きな男だった。
『日浦。元気でな』
『木崎さんも。……お元気で』
レインボーブリッジの真下で交わす最後の言葉。並び立つ二つの影はあちらとこちらに分離して、あちらは闇へ、こちらも闇へ。
ひとりになった愁は虹の橋のたもとにぽつんと立っていた。
雨上がり、満月の夜に待ち合わせ。
『逢い引きにしては、なかなか風情があるな』
待たせた男の独り言。
この煙草が終わる頃には、まだ待ち人は来ないだろう。甘い煙草をゆっくりゆっくり燻《くゆ》らせて、漆黒の長夜《ながよ》に彼は溶け込んだ。
人を殺した経験はあれども酒、煙草、女遊びやギャンブルとは縁遠そうな実直な会長第二秘書は、付き従っていた夏木十蔵が死してようやく本来の姿を愁の前で披露した。
『日浦が俺の考えを理解してくれるとは思わなかった』
『昔、世話になったボスと木崎さんが似ているんです』
『ボスって言うとあいつか、キングの側近の』
『はい。ボスも最後は木崎さんと似た選択をしていました。だからあなたとボスが重なるところがあって、つい援助をしたくなってしまったんです。それに俺は、夏木会長を主《あるじ》だとは思っていません。俺の主は生涯、ボスだけです。この煙草もボスが好んで吸っていた銘柄なんですよ』
追憶の瞳の日浦が吸う煙草は、赤と白のパッケージのマールボロだ。愁のウィンストンと日浦のマールボロの煙が同時に夜風に揺蕩《たゆた》って空に舞った。
日浦が今も変わらず慕う彼のボスは刑務所の檻の中。二度と会えないボスの面影を宿した煙草を、彼は旨そうに吸い込んでいる。
『木崎さんもやっと会長から解放されたんです。自分が思うままの選択をしてください』
『お前も人がいいな』
『ボスならどんな判断を下すか考えたまでですよ。ボスも俺と同じで、木崎さんを助けて送り出していたと思います』
日浦がボスと慕う男とは過去に数回、仕事現場で顔を会わせた。最後に男と会ったのは犯罪組織カオスが壊滅する前だったが、あの男も日浦同様に犯罪者のくせして面倒みの良い、物好きな男だった。
『日浦。元気でな』
『木崎さんも。……お元気で』
レインボーブリッジの真下で交わす最後の言葉。並び立つ二つの影はあちらとこちらに分離して、あちらは闇へ、こちらも闇へ。
ひとりになった愁は虹の橋のたもとにぽつんと立っていた。
雨上がり、満月の夜に待ち合わせ。
『逢い引きにしては、なかなか風情があるな』
待たせた男の独り言。
この煙草が終わる頃には、まだ待ち人は来ないだろう。甘い煙草をゆっくりゆっくり燻《くゆ》らせて、漆黒の長夜《ながよ》に彼は溶け込んだ。