〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
運河に面した散歩道に人が立っている。闇を流れる紫煙が風に乗ってゆらりと舞い、近付く美夜の鼻先をかすめた。
「今はスマホがあるから便利ね。ロミジュリの時代も携帯電話があれば、ロミオもジュリエットとロレンスの計画を知れて、二人の逃避行は成功したのに」
『スマホがある14世紀のイタリアはロマンがねぇな』
再会の挨拶の一言目は、“こんばんは”でも“久しぶり”でもない。
禁煙の条例違反も不法侵入も当然な顔で行う木崎愁に向けて、美夜は自身のスマホを突き付けた。
「地図と一緒に添付してあった写真はなに?」
『旅行のお誘い。お前が謹慎してる最中も結局行けなかったし』
早朝に届いたメールの送り主は美夜には自明であった。
[ 12月24日午前零時 ]のたった一行の本文と、メールに添付された二枚の画像。
一枚は芝浦ふ頭駅から芝浦南ふ頭公園までの経路が記された地図。もう一枚は雪景色の湖の写真だ。
『指名手配犯の俺は海で自殺したことになってるって?』
「鎌倉で夏木朋子を殺害後に海に入って自殺したと思ってる刑事が半分、あなたは生存していてどこかの組織で匿われていると思ってる刑事が半分」
『なんでまだ俺の顔と名前を公開しない? 顔も名前も世間に晒さねぇと指名手配した意味ないだろ』
「銃を所持したまま逃亡したからよ。顔と名前を公開してしまえば、民間人が街で見かけたあなたに迂闊に近付く危険もある。あなたが民間人相手に無闇に発砲する人間ではないと、うちの一課長は断言していたけどね」
愁は水と陸を隔てる柵に背を預けて悠々と煙草を吸っていた。彼の隣に寄り添った美夜は、運河の向こうの夜景に視線を送る。
あちら側はお台場だ。台場のテレビ局が目の前に見える。
「夏木朋子との関係は伶くんが話してくれた。夏木会長公認の関係だったのね。あなたと朋子に血縁関係がなくても、奥さんと息子の不倫関係を容認する夏木会長はどうかしてる」
『俺も含めた夏木家の人間は全員狂ってる。愛がなくても女は抱けると思ってたんだよ』
「愛がなくても抱いていたのよね。朋子の他にも沢山、彼女がいたようで。あなたの交遊関係を調べていてだんだん腹が立ってきた」
『ヤキモチ?』
「そうかも」
ひとり、またひとりと愁に抱かれた女の情報が耳に入るたび心の奥が裂けて痛かった。お前も木崎愁に弄《もてあそ》ばれた女の一人だと言いたげな、同僚達の哀れむ視線も煩《わずら》わしかった。
「今はスマホがあるから便利ね。ロミジュリの時代も携帯電話があれば、ロミオもジュリエットとロレンスの計画を知れて、二人の逃避行は成功したのに」
『スマホがある14世紀のイタリアはロマンがねぇな』
再会の挨拶の一言目は、“こんばんは”でも“久しぶり”でもない。
禁煙の条例違反も不法侵入も当然な顔で行う木崎愁に向けて、美夜は自身のスマホを突き付けた。
「地図と一緒に添付してあった写真はなに?」
『旅行のお誘い。お前が謹慎してる最中も結局行けなかったし』
早朝に届いたメールの送り主は美夜には自明であった。
[ 12月24日午前零時 ]のたった一行の本文と、メールに添付された二枚の画像。
一枚は芝浦ふ頭駅から芝浦南ふ頭公園までの経路が記された地図。もう一枚は雪景色の湖の写真だ。
『指名手配犯の俺は海で自殺したことになってるって?』
「鎌倉で夏木朋子を殺害後に海に入って自殺したと思ってる刑事が半分、あなたは生存していてどこかの組織で匿われていると思ってる刑事が半分」
『なんでまだ俺の顔と名前を公開しない? 顔も名前も世間に晒さねぇと指名手配した意味ないだろ』
「銃を所持したまま逃亡したからよ。顔と名前を公開してしまえば、民間人が街で見かけたあなたに迂闊に近付く危険もある。あなたが民間人相手に無闇に発砲する人間ではないと、うちの一課長は断言していたけどね」
愁は水と陸を隔てる柵に背を預けて悠々と煙草を吸っていた。彼の隣に寄り添った美夜は、運河の向こうの夜景に視線を送る。
あちら側はお台場だ。台場のテレビ局が目の前に見える。
「夏木朋子との関係は伶くんが話してくれた。夏木会長公認の関係だったのね。あなたと朋子に血縁関係がなくても、奥さんと息子の不倫関係を容認する夏木会長はどうかしてる」
『俺も含めた夏木家の人間は全員狂ってる。愛がなくても女は抱けると思ってたんだよ』
「愛がなくても抱いていたのよね。朋子の他にも沢山、彼女がいたようで。あなたの交遊関係を調べていてだんだん腹が立ってきた」
『ヤキモチ?』
「そうかも」
ひとり、またひとりと愁に抱かれた女の情報が耳に入るたび心の奥が裂けて痛かった。お前も木崎愁に弄《もてあそ》ばれた女の一人だと言いたげな、同僚達の哀れむ視線も煩《わずら》わしかった。