〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
12月24日(Mon)
初めて足を踏み入れた神田美夜の自宅は捜査一課の彼女のデスクと同様に、綺麗に片付いた部屋だった。シワもなく整ったベッドには家主が寝た形跡はない。
『どこ行ったんだよ……』
溜息に漏れた独り言を吐いて、九条大河はソファーに腰を降ろした。カーテンが半分開いた窓からは弱々しい太陽の光が差し込んでいる。
異常事態の発覚は今日午前8時頃。出勤時間を過ぎても美夜は警視庁に現れなかった。
彼女の性格的に無断欠勤は考えられない。何度か美夜のスマートフォンに連絡を試みたが、電源が切られていて全く繋がらなかった。
それだけならスマホの電池切れと体調不良による欠勤連絡の失念と、彼女の性格的には無理があってもまだ理由もまかり通る。
けれど昨日、美夜は手錠を携帯したまま帰宅していた。勤務時間外の手錠の持ち出しは禁止されているとわかっていながら、彼女は規則違反を犯した。
無断欠勤と規則違反は明らかに美夜らしくない。現在、九条と杉浦、真紀が手分けして美夜の行方を捜しているが、彼女の足取りは午前11時を過ぎた今も掴めない。
九条は赤坂の美夜の自宅に向かった。マンションのエントランスに設置された防犯カメラには昨夜22時50分頃にマンションを出る美夜の姿が映っていた。
そこから今朝までの約7時間分の映像を確認したが、23時前にマンションを出た美夜が再び帰宅した映像はなかった。
美夜の自宅からは赤坂駅と溜池山王駅の二駅利用が可能だ。溜池山王駅には杉浦が聞き込みに行っている。
無断欠勤、電源が切られたスマートフォン、手錠の持ち出し、夜間の外出、不自然に整理整頓された部屋。これらの事実から導き出される結論はたったひとつ。
相棒の九条に一言も告げずに、美夜は木崎愁に会いに行った。おそらく美夜と愁は今も行動を共にしている。
規則違反を犯してでも手錠を携《たずさ》えた美夜は、刑事として愁を逮捕しに行ったのか、女として愁と逃げる道を選択したのか、現時点では判断しかねる。
どちらでも警察官として只《ただ》では済まされない。美夜が愁を逮捕して警視庁に帰って来たとしても、何らかの処罰が下るだろう。
視界の片隅に入り込んだ物体はチェストに置かれた赤色のバレッタ。美夜の誕生日プレゼントに九条が贈った物だ。
バレッタの下には紙が挟まっている。飾り気のない罫線のメモ用紙に書き置きされた“ごめんね”の四文字は、生真面目な美夜の性格と同じ、達筆で綺麗な文字だった。
『何が……何が、“ごめん”なんだよ……。ごめんだけじゃ……わかんねぇんだよ……』
勝手にいなくなって“ごめん”? 遠回しの告白に対する“ごめん”?
塞《せ》き止められずに溢れる涙が頬を流れる。震える両脚はやがて崩れて、側のチェストにすがるように九条は大きな身体を床に丸めた。
初めて足を踏み入れた神田美夜の自宅は捜査一課の彼女のデスクと同様に、綺麗に片付いた部屋だった。シワもなく整ったベッドには家主が寝た形跡はない。
『どこ行ったんだよ……』
溜息に漏れた独り言を吐いて、九条大河はソファーに腰を降ろした。カーテンが半分開いた窓からは弱々しい太陽の光が差し込んでいる。
異常事態の発覚は今日午前8時頃。出勤時間を過ぎても美夜は警視庁に現れなかった。
彼女の性格的に無断欠勤は考えられない。何度か美夜のスマートフォンに連絡を試みたが、電源が切られていて全く繋がらなかった。
それだけならスマホの電池切れと体調不良による欠勤連絡の失念と、彼女の性格的には無理があってもまだ理由もまかり通る。
けれど昨日、美夜は手錠を携帯したまま帰宅していた。勤務時間外の手錠の持ち出しは禁止されているとわかっていながら、彼女は規則違反を犯した。
無断欠勤と規則違反は明らかに美夜らしくない。現在、九条と杉浦、真紀が手分けして美夜の行方を捜しているが、彼女の足取りは午前11時を過ぎた今も掴めない。
九条は赤坂の美夜の自宅に向かった。マンションのエントランスに設置された防犯カメラには昨夜22時50分頃にマンションを出る美夜の姿が映っていた。
そこから今朝までの約7時間分の映像を確認したが、23時前にマンションを出た美夜が再び帰宅した映像はなかった。
美夜の自宅からは赤坂駅と溜池山王駅の二駅利用が可能だ。溜池山王駅には杉浦が聞き込みに行っている。
無断欠勤、電源が切られたスマートフォン、手錠の持ち出し、夜間の外出、不自然に整理整頓された部屋。これらの事実から導き出される結論はたったひとつ。
相棒の九条に一言も告げずに、美夜は木崎愁に会いに行った。おそらく美夜と愁は今も行動を共にしている。
規則違反を犯してでも手錠を携《たずさ》えた美夜は、刑事として愁を逮捕しに行ったのか、女として愁と逃げる道を選択したのか、現時点では判断しかねる。
どちらでも警察官として只《ただ》では済まされない。美夜が愁を逮捕して警視庁に帰って来たとしても、何らかの処罰が下るだろう。
視界の片隅に入り込んだ物体はチェストに置かれた赤色のバレッタ。美夜の誕生日プレゼントに九条が贈った物だ。
バレッタの下には紙が挟まっている。飾り気のない罫線のメモ用紙に書き置きされた“ごめんね”の四文字は、生真面目な美夜の性格と同じ、達筆で綺麗な文字だった。
『何が……何が、“ごめん”なんだよ……。ごめんだけじゃ……わかんねぇんだよ……』
勝手にいなくなって“ごめん”? 遠回しの告白に対する“ごめん”?
塞《せ》き止められずに溢れる涙が頬を流れる。震える両脚はやがて崩れて、側のチェストにすがるように九条は大きな身体を床に丸めた。