〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
24日の日光市の空は分厚い雨雲に覆われていた。夕方からは雪の予報が出ており、正午を過ぎた午後の最高気温は2℃。東京の気候に慣れた者には堪える寒さだ。
数日の生活に困らない程度には家具や家電、食器は揃っている。愁が別荘に運び込んだ荷物は、新品の二組の敷き布団と毛布のみ。
朝昼兼用の簡素な食事を済ませた二人は着替えや雪に備えた防寒具、足りない生活用品の買い出しに出掛けた。
別荘の駐車場で雨に打たれる車は愁の愛車のクーペではなく、黒色のSUV車。行き先は日光市の今市《いまいち》地域にあるショッピングセンターだ。
『俺達に関する報道は何も出てないな』
「不確定要素が多いから正式公表できないのよ。私達が一緒にいる現場を誰かが目撃していたなら、指名手配犯が刑事を人質に逃亡って筋書きで報道に公表もできるだろうけど……」
愁が美夜に連絡を寄越した新しいスマートフォンもSUV車も、用意したのは夏木会長の第二秘書だった日浦一真らしい。日浦が警察の監視を掻い潜って、どのようにして車とスマホを入手したかは定かではない。
しかし美夜の上司と同僚は皆優秀だ。警察が日浦の周辺を捜査すればスマホの電話番号や車のナンバーもいずれ割り出してしまう。逃走を手助けした日浦は犯人隠避《いんぴ》罪に問われる。
「ねぇ、高校の先輩であなたが夏木コーポレーションの会長秘書になったことを知ってる人っている?」
『高校の先輩?』
「一課長の知人があなたの高校の先輩だったって聞いた。その人が指名手配のニュースを見て一課長に連絡してきたみたい。でもあなたの顔も名前も公表してないから、夏木コーポレーション会長秘書の肩書きを知ってる人じゃないかと思って」
ハンドルを握る愁は顔をしかめている。捜査線上に浮上した愁の交遊関係には学生時代の友人知人はひとりもいなかった。
彼が夏木コーポレーションに勤務している事実を知らない同級生や先輩後輩が大半だろう。
けれど昨夜、上野一課長を鍋パーティーに招待した愁の先輩を名乗る人物は、報道に公開された夏木コーポレーション会長秘書の肩書きだけで指名手配犯が木崎愁だと気付いたのだ。
『夏木コーポレーションに入ってから高校の関係者とは誰とも会ってねぇし、心当たりねぇな。……まさか渡辺先輩の関係か』
「渡辺先輩?」
『高校一年の時、生徒会室の隣の空き教室が俺の居場所だった。うるせぇ奴らに囲まれて教室で過ごすよりも、静かに本が読めて快適だった。ただ、あの頃に生徒会役員だった三年の先輩達とはたまに喋ったりして、渡辺先輩は生徒会メンバーの友達』
語られる愁の高校時代は非常に彼らしい。
数日の生活に困らない程度には家具や家電、食器は揃っている。愁が別荘に運び込んだ荷物は、新品の二組の敷き布団と毛布のみ。
朝昼兼用の簡素な食事を済ませた二人は着替えや雪に備えた防寒具、足りない生活用品の買い出しに出掛けた。
別荘の駐車場で雨に打たれる車は愁の愛車のクーペではなく、黒色のSUV車。行き先は日光市の今市《いまいち》地域にあるショッピングセンターだ。
『俺達に関する報道は何も出てないな』
「不確定要素が多いから正式公表できないのよ。私達が一緒にいる現場を誰かが目撃していたなら、指名手配犯が刑事を人質に逃亡って筋書きで報道に公表もできるだろうけど……」
愁が美夜に連絡を寄越した新しいスマートフォンもSUV車も、用意したのは夏木会長の第二秘書だった日浦一真らしい。日浦が警察の監視を掻い潜って、どのようにして車とスマホを入手したかは定かではない。
しかし美夜の上司と同僚は皆優秀だ。警察が日浦の周辺を捜査すればスマホの電話番号や車のナンバーもいずれ割り出してしまう。逃走を手助けした日浦は犯人隠避《いんぴ》罪に問われる。
「ねぇ、高校の先輩であなたが夏木コーポレーションの会長秘書になったことを知ってる人っている?」
『高校の先輩?』
「一課長の知人があなたの高校の先輩だったって聞いた。その人が指名手配のニュースを見て一課長に連絡してきたみたい。でもあなたの顔も名前も公表してないから、夏木コーポレーション会長秘書の肩書きを知ってる人じゃないかと思って」
ハンドルを握る愁は顔をしかめている。捜査線上に浮上した愁の交遊関係には学生時代の友人知人はひとりもいなかった。
彼が夏木コーポレーションに勤務している事実を知らない同級生や先輩後輩が大半だろう。
けれど昨夜、上野一課長を鍋パーティーに招待した愁の先輩を名乗る人物は、報道に公開された夏木コーポレーション会長秘書の肩書きだけで指名手配犯が木崎愁だと気付いたのだ。
『夏木コーポレーションに入ってから高校の関係者とは誰とも会ってねぇし、心当たりねぇな。……まさか渡辺先輩の関係か』
「渡辺先輩?」
『高校一年の時、生徒会室の隣の空き教室が俺の居場所だった。うるせぇ奴らに囲まれて教室で過ごすよりも、静かに本が読めて快適だった。ただ、あの頃に生徒会役員だった三年の先輩達とはたまに喋ったりして、渡辺先輩は生徒会メンバーの友達』
語られる愁の高校時代は非常に彼らしい。