〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 今市地区に建つショッピングセンター上空も寒空から弱い雨が降っている。屋外駐車場の片隅には、古くなった固い雪が積もっていた。

 店舗の出入口に飾り付けされたクリスマスツリー、店内に流れる賑やかなクリスマスのメロディ。
赤と緑とサンタクロース、クリスマス一色の店内を多くの家族連れが行き交っている。

今日は月曜日だが、日曜日が天皇誕生日だったために24日のクリスマスイブが振替休日となった。両親と子どもが揃ってクリスマスの外出を楽しむ光景が、あちらこちらで見受けられた。

「休日のスーパーやショッピングモールの空気が昔から苦手だった。どこを見ても普通の幸せそうな家族しかいなくて」
『“普通の家族”も早々いないぞ。実はあそこの家族はどっちかが浮気してたり、大人しそうに見えるあの娘も家の中では反抗期かもしれない』

 一応の変装のつもりで愁は伊達《だて》眼鏡をかけている。見慣れない眼鏡姿の彼の瞳は、ある家族に向いていた。

ショッピングセンター内のケーキ屋の前でクリスマスケーキを選ぶ一組の家族。ケーキが陳列するガラスケースに張り付く小学生の娘と両親が笑い合っている。
母親の腹部には、もうひとりの命の存在を示す膨らみがあった。

「お腹の子が浮気相手の子どもとか?」
『可能性はある。妊娠中の旦那の浮気もよくある話。蓋を開ければ問題のない家族はいない。表からは幸せに見えるように見栄張って、装ってるだけだ』
「そうね。でもその幸せすら装えなかった私には、休日にこういう場所に集まる人達が眩しかった」
『休日にこういう場所に買い物に来てる俺達も、どう見えてるだろうな』
「刑事と犯罪者には見えてないといいな」

 服屋で互いの服を選び合う美夜と愁も、表側から見れば幸せそうに見えるカップルだ。二人が抱える事情などショッピングセンターですれ違うだけの人間は知りもしない。

 地方の中規模ショッピングセンターではテナントに入るレディースのアパレル店も限りがある。服の系統はミセス向けかティーン向けのどちらかしかなく、渋々入店したティーン向けの店は小遣いを握りしめた地元の中高生で溢れていた。

「少し色が派手じゃない?」
『これがいい。美夜は赤が似合う』

 愁が選んだ紅色のケーブル編みニットは美夜の白い肌によく映える。先ほど同じ棚から、色違いの白色のニットを高校生と思われる少女がレジに運んでいた。

 服にこだわりがない美夜でも、自分よりはるかに年齢が下の客で埋め尽くされた店での買い物は気恥ずかしい。愁はそんなことは気にも留めず、美夜に似合う服を探し求めて店を徘徊している。

無精髭を生やした三十路の男がレディースのアパレルショップをうろつく様は、常識的に考えれば女性客に疎ましがられる。けれど十代の中高生にしてみればオジサンの領域に入る愁を見つめる少女達の眼差しは、一様に熱い。

「年下からもモテてますよ。あの子達が隠し撮りしないかヒヤヒヤする。今の子って、写真撮ってSNSに載せることしか考えてないもの」
『今のところスマホいじってないから大丈夫だろ。田舎臭いガキ共が舞より可愛い女なら、相手に考えてやってもいいけどな』
「シスコンねぇ」
『舞より可愛い女はいねぇし、美夜よりいい女もいねぇよ』

 さらりと放たれた口説き文句の裏側には、ひとりにしてしまった妹への愛情が潜んでいる。置いてきた人々を気にしているのは愁も同じ。
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