〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
レゴブロックのような四角いビルがひしめき合う青山通りは夜間も交通量が多く、窓を閉めていても横を流れる車の走行音が聞こえる。
「舞ちゃんは雨宮が実の伯父だとは……」
『知らないからこの事態を引き起こした。雨宮は舞の前では偽名を名乗っていたらしいが、そもそも舞は母親の紫音のことすらろくに覚えてない。俺や会長が舞にすべて隠してきたツケだ』
表情の変化に乏しい愁の顔に、初めて物憂げな陰が宿る。闇を照らす街の灯りが浮かび上がらせた愁の横顔は哀しげで、意図せず心に疼いた甘い痛みに慌てて蓋をした。
「舞ちゃんと雨宮の関係はわかった。さっきの、夏木会長への復讐と謝罪ってどういう意味?」
『舞の本当の父親は夏木十蔵だ。紫音が会長と不倫してできた娘が舞。雨宮はそのことを紫音の日記で知った』
「養女じゃなくて実子……?」
さすがに頭が混乱してきた。脳内で修正した家系図は、夏木十蔵と舞が養父と養女ではなく血縁関係がある父と娘の糸で結ばれる。
『雨宮は紫音が自殺した原因が会長との不倫だと思い込んでいた』
「それで舞ちゃんとの動画を脅しのネタに利用して、会長に復讐と謝罪の要求を?」
『真実なんてものは、どれだけ探っても本人にしかわからないのにな。雨宮は紫音を妹以上の感情で溺愛していたようだし、姪とヤるような頭のおかしい男の妄想に付き合うのも馬鹿らしい。会長は雨宮に一億寄越《よこ》しただけで、一言も謝罪はしなかった』
謝罪しなかった夏木十蔵。妹を夏木会長に奪われたと思い込んだ雨宮冬悟。
両者の間に何が起きたか、美夜は思考を巡らせる。
愁に殺人を指示している人間がいるとすれば、夏木十蔵しかいない。
亡き紫音の夫である埼玉の明智社長も先月の伊吹大和も、夏木十蔵が命じて愁に殺させたのか?
夏木十蔵と愁には、単なる会長と秘書の関係以上の繋がりがあると思えた。
「だからあなたが雨宮を殺したのね?」
『それが一夜を共にした相手に言う言葉?』
「今はその話は関係ない。舞ちゃんを大切に思ってるあなたには、雨宮を殺害する動機が充分にあった。それとも雨宮の殺害は夏木十蔵が命じたの?」
美夜の質問に愁は答えず、信号待ちに彼は白い箱から煙草を一本抜き取った。飽きもせずに銘柄はまたウィンストン。
美夜の家に置き去りにした煙草と同じだ。
『動画のデータはどうやって手に入れた?』
「雨宮が借りていた銀行の貸金庫に動画のデータが入ったUSBが保管してあったの」
火をつけた煙草を咥えた愁は、口の端を上げて薄く笑った。車内に漂う芳醇な甘い香りは彼を顕現《けんげん》する魅惑の匂い。
「舞ちゃんは雨宮が実の伯父だとは……」
『知らないからこの事態を引き起こした。雨宮は舞の前では偽名を名乗っていたらしいが、そもそも舞は母親の紫音のことすらろくに覚えてない。俺や会長が舞にすべて隠してきたツケだ』
表情の変化に乏しい愁の顔に、初めて物憂げな陰が宿る。闇を照らす街の灯りが浮かび上がらせた愁の横顔は哀しげで、意図せず心に疼いた甘い痛みに慌てて蓋をした。
「舞ちゃんと雨宮の関係はわかった。さっきの、夏木会長への復讐と謝罪ってどういう意味?」
『舞の本当の父親は夏木十蔵だ。紫音が会長と不倫してできた娘が舞。雨宮はそのことを紫音の日記で知った』
「養女じゃなくて実子……?」
さすがに頭が混乱してきた。脳内で修正した家系図は、夏木十蔵と舞が養父と養女ではなく血縁関係がある父と娘の糸で結ばれる。
『雨宮は紫音が自殺した原因が会長との不倫だと思い込んでいた』
「それで舞ちゃんとの動画を脅しのネタに利用して、会長に復讐と謝罪の要求を?」
『真実なんてものは、どれだけ探っても本人にしかわからないのにな。雨宮は紫音を妹以上の感情で溺愛していたようだし、姪とヤるような頭のおかしい男の妄想に付き合うのも馬鹿らしい。会長は雨宮に一億寄越《よこ》しただけで、一言も謝罪はしなかった』
謝罪しなかった夏木十蔵。妹を夏木会長に奪われたと思い込んだ雨宮冬悟。
両者の間に何が起きたか、美夜は思考を巡らせる。
愁に殺人を指示している人間がいるとすれば、夏木十蔵しかいない。
亡き紫音の夫である埼玉の明智社長も先月の伊吹大和も、夏木十蔵が命じて愁に殺させたのか?
夏木十蔵と愁には、単なる会長と秘書の関係以上の繋がりがあると思えた。
「だからあなたが雨宮を殺したのね?」
『それが一夜を共にした相手に言う言葉?』
「今はその話は関係ない。舞ちゃんを大切に思ってるあなたには、雨宮を殺害する動機が充分にあった。それとも雨宮の殺害は夏木十蔵が命じたの?」
美夜の質問に愁は答えず、信号待ちに彼は白い箱から煙草を一本抜き取った。飽きもせずに銘柄はまたウィンストン。
美夜の家に置き去りにした煙草と同じだ。
『動画のデータはどうやって手に入れた?』
「雨宮が借りていた銀行の貸金庫に動画のデータが入ったUSBが保管してあったの」
火をつけた煙草を咥えた愁は、口の端を上げて薄く笑った。車内に漂う芳醇な甘い香りは彼を顕現《けんげん》する魅惑の匂い。