〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
愁の言うように妊娠の確率はフィフティフィフティ。どちらに転がるかは誰にもわからない。
妊娠しなかったは所詮《しょせん》、結果論に過ぎない。
「男って本当に勝手だね。女が次の生理が来るまでどれだけ不安か、考えたこともないでしょ? 一時の感情で馬鹿なことをした自分に自己嫌悪して、避妊のないセックスには後悔しか残らない。快楽だけで終われる男にはこの苦しみは一生わからない」
目的地のないドライブは赤坂を一周していた。美夜の糾弾にも黙《だんま》りを決め込んで煙草をふかす愁は、見慣れた赤坂の道で悠々とハンドルを操っている。
「何か言ってよ」
『反論はない。男は出すもの出せればそれで終わる。妊娠の怖さや不安も、口では何とでも言えても本心では理解はしていない。俺に怒ってるのはつまりそういうことか』
「……違う。煙草を置き忘れたあなたにも連絡を返さないあなたにも、刑事だと知っていて近付いてきたあなたにも怒りは感じてる。でも一番は、あなたみたいな最低な男のことを毎日考えてる自分に苛立つのよ。私は私が許せない」
美夜の家を少し過ぎ、タワーマンションに併設された公園の前で車が停車した。素直な心情を吐露した美夜の隣では、煙草の始末を終えた愁がシートベルトを外していた。
『俺もお前のこと毎日考えてた』
「嘘つかないで。だったらなんで煙草の忘れ物の連絡に返信しないの? これ見よがしにわざとベッドの側に置いて……。あの煙草を見るたびにあなたに会いたくなるのよっ……!」
『そういうところ、本当に素直だよな』
愁の大きな手が頬に触れ、優しく肌をなぞる彼の指の動きに、彼女は初めて自分が泣いていたと知る。
会いたくてたまらなくて会えないと苦しい。
会わない方がいいと耐えて、会えたら嬉しかった。
「私のことどう思ってる?」
涙声で呟いた言葉は驚くほど陳腐なセリフ。メロドラマの主人公なら、こんな時は何て言う?
『いつか殺したいと思ってる』
「じゃあ今殺せば?」
『今は殺さない』
「どうして?」
『美夜とキスがしたいから』
肝心な時にはいつだって名前呼び。ずるくて最低な男の唇の味は、今夜も甘くて優しかった。
『お前は俺のことどう思ってる?』
狭い車内で密着する二つの身体。額と額を触れ合わせ見つめ合う男女の唇は濃艶《のうえん》に湿っている。
「いつか逮捕したいと思ってる」
『物騒な女』
「あなたにだけは言われたくない。だから私が逮捕するまで、絶対に誰にも捕まらないで」
『それは宣戦布告か愛の告白、どっち?』
「愛の告白に決まってるでしょう?」
闇に溶け込む二つのシルエットが再び重なる。二度目のキスの合間に薄く目を開けた美夜の目の前には、暗がりでもはっきりとわかる愁の長い睫毛が扇状に伏せていた。
これは女刑事と犯罪者の、愛の告白と宣戦布告。
強がりな女刑事が愛を告白した相手は、その手を赤い罪に染めた人殺し。誰よりも愛しい殺人者のぬくもりが、女刑事の心の一番奥を抱き締めて離さなかった。
妊娠しなかったは所詮《しょせん》、結果論に過ぎない。
「男って本当に勝手だね。女が次の生理が来るまでどれだけ不安か、考えたこともないでしょ? 一時の感情で馬鹿なことをした自分に自己嫌悪して、避妊のないセックスには後悔しか残らない。快楽だけで終われる男にはこの苦しみは一生わからない」
目的地のないドライブは赤坂を一周していた。美夜の糾弾にも黙《だんま》りを決め込んで煙草をふかす愁は、見慣れた赤坂の道で悠々とハンドルを操っている。
「何か言ってよ」
『反論はない。男は出すもの出せればそれで終わる。妊娠の怖さや不安も、口では何とでも言えても本心では理解はしていない。俺に怒ってるのはつまりそういうことか』
「……違う。煙草を置き忘れたあなたにも連絡を返さないあなたにも、刑事だと知っていて近付いてきたあなたにも怒りは感じてる。でも一番は、あなたみたいな最低な男のことを毎日考えてる自分に苛立つのよ。私は私が許せない」
美夜の家を少し過ぎ、タワーマンションに併設された公園の前で車が停車した。素直な心情を吐露した美夜の隣では、煙草の始末を終えた愁がシートベルトを外していた。
『俺もお前のこと毎日考えてた』
「嘘つかないで。だったらなんで煙草の忘れ物の連絡に返信しないの? これ見よがしにわざとベッドの側に置いて……。あの煙草を見るたびにあなたに会いたくなるのよっ……!」
『そういうところ、本当に素直だよな』
愁の大きな手が頬に触れ、優しく肌をなぞる彼の指の動きに、彼女は初めて自分が泣いていたと知る。
会いたくてたまらなくて会えないと苦しい。
会わない方がいいと耐えて、会えたら嬉しかった。
「私のことどう思ってる?」
涙声で呟いた言葉は驚くほど陳腐なセリフ。メロドラマの主人公なら、こんな時は何て言う?
『いつか殺したいと思ってる』
「じゃあ今殺せば?」
『今は殺さない』
「どうして?」
『美夜とキスがしたいから』
肝心な時にはいつだって名前呼び。ずるくて最低な男の唇の味は、今夜も甘くて優しかった。
『お前は俺のことどう思ってる?』
狭い車内で密着する二つの身体。額と額を触れ合わせ見つめ合う男女の唇は濃艶《のうえん》に湿っている。
「いつか逮捕したいと思ってる」
『物騒な女』
「あなたにだけは言われたくない。だから私が逮捕するまで、絶対に誰にも捕まらないで」
『それは宣戦布告か愛の告白、どっち?』
「愛の告白に決まってるでしょう?」
闇に溶け込む二つのシルエットが再び重なる。二度目のキスの合間に薄く目を開けた美夜の目の前には、暗がりでもはっきりとわかる愁の長い睫毛が扇状に伏せていた。
これは女刑事と犯罪者の、愛の告白と宣戦布告。
強がりな女刑事が愛を告白した相手は、その手を赤い罪に染めた人殺し。誰よりも愛しい殺人者のぬくもりが、女刑事の心の一番奥を抱き締めて離さなかった。