〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
『ジョーカーは一切の感情を交えず人を殺す。頭も良く、仕事の早い人間だったから重宝していたよ』
『ジョーカーの正体は誰なんだ?』

 思わず前のめりに身を乗り出した身体がパイプ椅子を軋ませた。何の感情表現のつもりか知らないが、貴嶋は小首を傾げて明後日の方向を見つめている。

『ジョーカーは夏木十蔵に最も近い人間とでも言っておこう』
『近い人間と言うと会長の秘書……とか?』
『それはどうかな。秘書なんて、いつ縁が切れてもおかしくない繋がりを私は最も近いとは言わない。縁を切りたければ会社を辞めればいい』
『じゃあどういう意味だ?』
『切りたくても切れない繋がりがあるんだよ。謂《い》わば呪いだね。私にも覚えがある。ジョーカーは、私と非常によく似ているんだ』

 抽象的でまどろっこしい。真紀が貴嶋と話しているとイライラすると言っていた意味がよくわかる。

 こんな話をするくらいなら捜査本部に加わって、一刻も早く雨宮冬悟を殺害した犯人、そしてジョーカーとの関連性を解明したい。

雨宮の骨は上腕部しか発見できていない。他の部分は海の底だ。
それだけの証拠では雨宮がいつ、どのように殺害されたか知る手立てはなく、雨宮の死亡推定時刻が割り出せないと木崎愁のアリバイも調べようがない。捜査は八方塞がりの状態だ。

『君は他にも心にしこりを抱えているね。私でよければ話を聞こう。ここは退屈でね、外の世界の話に飢えているんだ。好きなだけ話せばいい』

 貴嶋佑聖は摩訶《まか》不思議な独特のオーラを放っている。威圧感とも違う、圧倒的な何か……。

これがカリスマと言われる人間だけが持つオーラ。
人を惑わし惹き込み、無意識に心の奥をさらけ出させる。油断すると呑まれてしまいそうになる貴嶋の“気”に、九条の心は緊張していた。

『俺が怪しいと睨んでいる男がジョーカーだったら、の話として聞いてくれ。犯罪者を好きになった女はどうなるんだ?』
『ジョーカーに惚れている女性がいるという話かな』
『俺も彼女の本当の気持ちはわからない。だけど、好きになれば不幸になるだけの男を好きになった女はどうなる?』
『その女性は君と同じ警察官、しかも君と近い関係にある。相棒かな?』

 何故と言いたげにあんぐりと口を開ける九条に、貴嶋は子どもっぽいイタズラな笑顔を向けた。
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