〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 年齢では四十になるはずの貴嶋は、そうして陽気に笑っているとやんちゃ盛りの高校生にも見える。
まったく得体が知れない。

『口に出さずともわかるよ。君は心が顔に出やすい。素直で結構だが、人としての長所は刑事の面では短所となる。気をつけなさい』

指摘を受けて触れた頬は強張っている。気持ちが顔に出やすいとは、美夜や真紀にも散々指摘される九条の短所だ。
直そうにも、彼はポーカーフェイスが大の苦手だった。

『刑事がジョーカーを……なるほどね。犯罪者と知ってもその男を愛し続けた女性を私も知っている。私が彼女と出会った時、彼女はまだ高校生だった。彼女が愛した男は私の部下。二人が結ばれた時点で、男はすでに人を三人殺していた』
『それでその彼女は……』
『彼女はすべてを自分で選択していた。男を愛したことも、男を忘れずにいることも、自首をさせることも。心が真っ直ぐな女性だった。私も彼女に救われたひとりだ。ここに閉じ込められた今も、私は彼女の幸せを願っている』

 飄々《ひょうひょう》として掴み所のなかった男が、初めて見せた憂《うれ》いの表情。悪名高い死刑囚にこんな表情をさせる存在がいたことに、九条は驚きを隠せない。

『君が心配している女性も最後の選択は自分で下す。恋愛の選択に周りの人間は介入できない。そういうものだよ』
『部外者は何も言わずに見守れって言いたいのか?』
『見守る愛もある。君にそれができるならね。破滅に向かう選択だとしても、彼女が選んだ答えを君が止める権利はない。彼女の人生だからね』

 美夜の選んだ答えを止める権利は九条にはない。死刑囚に突き付けられた言葉は正論だった。

犯罪者に諭される屈辱よりも、美夜の人生に介入する権利がない現実が、鋭い硝子の破片として心に刺さる。

『トランプのジョーカーは何枚ある?』
『一枚……じゃなく、二枚か。いきなり何を……』
『トランプにはジョーカーとエキストラジョーカーの二枚のジョーカーがある。ジョーカーのカードに描かれているイラストはただのピエロではないよ。あれは宮廷道化師。キングに臆せず物を申せる、特別な権利を与えられた道化師なんだ。宮廷道化師を表す二枚のジョーカー……。私が何を言いたいか、わかるかい?』

 貴嶋が言うところの“キング”が夏木十蔵、宮廷道化師は木崎愁……いや、貴嶋の口振りではもうひとり、エキストラジョーカーがいる。

『ジョーカーは二人いる……?』
『私は君が気に入った。だからひとつ忠告をしておこう。恐ろしいのは、躊躇なく人を殺せるジョーカーではない。殺戮を正義だと思い込み、人を殺すことで存在価値を証明したがるエキストラジョーカーこそ、真に恐ろしい怪物となる。殺人は決して正義ではない』

 多くの命をその手で奪ってきた死刑囚は、最後まで穏やかな口調で言葉を終えた。

 殺人は正義ではない──。犯罪者の分際で正論を口にする貴嶋が視界から消えても、九条はそこを動けずにいた。
ただただ、圧倒されている。

犯罪組織カオスのキングは得体の知れない不気味な優しさを放つ、魅惑の魔王だった。
< 41 / 185 >

この作品をシェア

pagetop