〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
銃の行方を目で追っていた美夜は、腰を屈めて床に転がる黒い塊に片手を伸ばす。銃を手に取りしばらく表面を眺めていた彼女はその銃口を愁に向けた。
「この銃、偽物ね」
『どうかな』
「馬鹿にしないで。モデルガンと本物の銃の違いくらいわかる。本物ならコートのポケットなんて危うい場所に仕舞ったりしないし、乱暴に床に放りもしない。こんなイタズラで私をからかって楽しい?」
美夜の言う通り、それはターゲットの脅しに使うだけのモデルガン。やはり刑事の目は誤魔化せない。元々、これしきのことで美夜が動揺するとも思っていなかった。
『お前の覚悟が知りたかったんだよ。俺を殺せるかどうか』
「これが本物なら殺していたかもね。今、最悪に腹が立ってる。コーヒーでいいなら出すから、部屋入ってて。あとコート貸して。干しておく」
雨に濡れた黒いコートは美夜に渡り、玄関と続き間のキッチンの床には、美夜が手放したモデルガンがひっそりと眠る。
二度目に訪れた美夜の部屋は前と変わらず、彼女の几帳面な性格に似て整理整頓されていた。
ベッドのサイドボードには、まだあの夜に愁が置き去りにした煙草が横たわっている。とうに期限を過ぎて吸えなくなった煙草と視線で再会の挨拶を交わして、彼はソファーに腰を降ろした。
美夜が淹れてくれたホットコーヒーをブラックのまま一口すする。このコーヒーの味はどこかで飲んだ記憶がある。
『ムゲットのコーヒーの味に似てる』
「園美さんに店で使ってる豆を教えてもらって、美味しい淹れ方も聞いたの。さすがにバリスタの技術には及ばないけどね」
『最近ムゲットに行ってないな』
「私も先月の初めに行ったきり。それからはなんとなく……行き辛くて」
美夜がムゲットに行き辛い理由には見当がつく。ムゲットのオーナー夫妻は愁の裏の顔を知らない。
愁と違い、美夜は嘘が苦手な女だ。愁が人殺しだと知らない彼らの前でどう振る舞えばいいか、わからないのだろう。
「まず聞きたいのは、いつ、どこで私が刑事と知ったの?」
『西村光、覚えてるか? サラリーマンを去勢して殺した高校生。お前が担当した事件だろ?』
二人掛けのソファーで触れ合う美夜の肩が身動いだ。飲みかけのコーヒーをテーブルに置いた彼女の顔に怒りの気配を感じる。
「あの子を支援していたのがあなたなの?」
『支援って言い方が合ってるかわからねぇが、色々と手助けはしてやった。光が自殺する直前にお前の名刺を貰ったんだ』
「これまで不可解だった出来事がやっと繋がった。じゃあ光のスマホを持ち去ったのも?」
『それは俺との繋がりを辿れなくするため』
隣で聞こえた大きな溜息は、処理しきれない感情の叫び。複雑な謎も明かしてみれば案外単純な仕掛けだ。
「この銃、偽物ね」
『どうかな』
「馬鹿にしないで。モデルガンと本物の銃の違いくらいわかる。本物ならコートのポケットなんて危うい場所に仕舞ったりしないし、乱暴に床に放りもしない。こんなイタズラで私をからかって楽しい?」
美夜の言う通り、それはターゲットの脅しに使うだけのモデルガン。やはり刑事の目は誤魔化せない。元々、これしきのことで美夜が動揺するとも思っていなかった。
『お前の覚悟が知りたかったんだよ。俺を殺せるかどうか』
「これが本物なら殺していたかもね。今、最悪に腹が立ってる。コーヒーでいいなら出すから、部屋入ってて。あとコート貸して。干しておく」
雨に濡れた黒いコートは美夜に渡り、玄関と続き間のキッチンの床には、美夜が手放したモデルガンがひっそりと眠る。
二度目に訪れた美夜の部屋は前と変わらず、彼女の几帳面な性格に似て整理整頓されていた。
ベッドのサイドボードには、まだあの夜に愁が置き去りにした煙草が横たわっている。とうに期限を過ぎて吸えなくなった煙草と視線で再会の挨拶を交わして、彼はソファーに腰を降ろした。
美夜が淹れてくれたホットコーヒーをブラックのまま一口すする。このコーヒーの味はどこかで飲んだ記憶がある。
『ムゲットのコーヒーの味に似てる』
「園美さんに店で使ってる豆を教えてもらって、美味しい淹れ方も聞いたの。さすがにバリスタの技術には及ばないけどね」
『最近ムゲットに行ってないな』
「私も先月の初めに行ったきり。それからはなんとなく……行き辛くて」
美夜がムゲットに行き辛い理由には見当がつく。ムゲットのオーナー夫妻は愁の裏の顔を知らない。
愁と違い、美夜は嘘が苦手な女だ。愁が人殺しだと知らない彼らの前でどう振る舞えばいいか、わからないのだろう。
「まず聞きたいのは、いつ、どこで私が刑事と知ったの?」
『西村光、覚えてるか? サラリーマンを去勢して殺した高校生。お前が担当した事件だろ?』
二人掛けのソファーで触れ合う美夜の肩が身動いだ。飲みかけのコーヒーをテーブルに置いた彼女の顔に怒りの気配を感じる。
「あの子を支援していたのがあなたなの?」
『支援って言い方が合ってるかわからねぇが、色々と手助けはしてやった。光が自殺する直前にお前の名刺を貰ったんだ』
「これまで不可解だった出来事がやっと繋がった。じゃあ光のスマホを持ち去ったのも?」
『それは俺との繋がりを辿れなくするため』
隣で聞こえた大きな溜息は、処理しきれない感情の叫び。複雑な謎も明かしてみれば案外単純な仕掛けだ。