〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 真紀との通話が終了しても九条は顔を伏せたまま無言だ。彼はまだ犯人グループ側に雪枝がいる現実を受け止めきれていない。

「九条くん、運転できそう? 代わろうか?」
『……平気。落ち込んでる場合じゃねぇな。首都高で一気に行くぞ』

 車の上部にセットしたサイレンが発進と同時に赤く唸る。池袋から首都高に乗って、二人は港区を目指した。

「雪枝ちゃんがいじめられているとは感じていたけど、いじめていたのが舞ちゃんだったのね」
『夏木舞とは前に会ってるんだろ? パパ活して同級生いじめて、俺は夏木舞には最悪なイメージしかないが、どんな子だ?』
「会ったのも一度きりだから、人柄を語れるほど舞ちゃんのことは知らない。けど舞ちゃんの兄や、同居してるあの人も舞ちゃんのワガママには手こずってるみたいだった」

舞の同居人の呼称はあえて出さない。あの告発動画は拡散を続けている。
今頃、パニックに陥った夏木コーポレーションの社内で木崎愁も対応に追われているだろう。

 サイレンを鳴らして首都高を駆ける警察車両に、煽り運転を仕掛ける馬鹿者も行く手を阻《はば》む馬鹿者もいない。美夜達は豊島区から20分弱で目的の港区に到着した。

 警視庁が設置した対策本部は、港区芝二丁目に所在する小学校の図書室。この小学校と大通りを挟んだ向かい側に紅椿学院高校がある。

 小学校の正面玄関の前には警官が二名立っていた。二人の警官に警察手帳を掲げ、敬礼に見送られて美夜達は手すりと蹴上《けあ》げが低い階段を上がった。

 図書室は二階の端。偉人達の伝記や古今東西の物語、植物図鑑や宇宙図鑑、世界地図など、小学生向けの書物が書棚に並ぶ図書室に集まるのは、気難しく眉を寄せた刑事達。

 集まった刑事達は室内に散らばる各テーブルごとにグループ分けされていた。
指揮官である捜査一課長の上野恭一郎、美夜達の上司の小山真紀と杉浦誠、組織犯罪対策部の百瀬警部と彼の部下が同じテーブルに。

別班の南田康春と多田真利子がすぐ隣のテーブルにいる。南田と真利子は応援で派遣された人員だろう。

他には通称をSIT《シット》と呼ばれる警視庁刑事部所属の特殊犯捜査係が数名待機していた。

 テーブルには数台のパソコンが設置され、壁面に貼られた生徒達が描いた想像力豊かでカラフルな絵は、壁の前を陣取る二つの巨大なホワイトボードに覆われて一部が見えない。

現在、把握している情報がその巨大なホワイトボードに時系列順にまとめられていた。

 事件発生時刻は今日、午前11時50分頃。
紅椿学院高校の守衛室から芝区域を管轄する三田警察署に通報が入った。

銃を所持した数名の男女が正門から無理やり学校に押し入ったとの連絡の最中、轟いた銃声と途切れた守衛の声。

 緊急事態を察した三田警察署の刑事が学校に到着した時には、紅椿学院高校の正門と裏門は中から鍵がかけられ、学校の敷地内には銃を所持した男が二人、門からの侵入を試みた刑事相手に威嚇発砲を仕掛けてきた。
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