〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 タブレット端末に向き合っていた南田が興奮気味に立ち上がった。彼は端末を持って上野に駆け寄る。

『身元が不明だった若い女の情報が伊東主任から入ってきました。名前は河原水穂、年齢は二十一歳。先月に女子児童連続切りつけの容疑で逮捕した、山岸勇喜の実の姉です』

 南田の周りに上野や真紀、美夜達が集まり、一斉にタブレット端末に羅列された情報を閲覧する。南田が、警視庁本部の伊東から送られた河原水穂のデータを読み上げた。

『山岸勇喜と河原水穂の両親は3年前に離婚、姉の水穂は母親に、弟の勇喜は父親に引き取られたので二人は苗字が違います。水穂に前科はありませんが弟の事件に不可解な点が多く、伊東主任が勇喜の交遊関係を中心に引き続き捜査をしていたんです』

 女子児童連続切りつけ事件、通称月曜日の切り裂きジャック事件は一部、犯行日時の勇喜のアリバイが立証されている。
しかし勇喜は、自分のアリバイが証明されている犯行もすべて自分が切りつけ行為を行ったと供述した。

勇喜は誰かを庇っている。十六歳の少年が庇う対象として最も怪しい存在は、家族だ。

『今回、伊東主任が山岸勇喜の家族の身辺を洗った時に入手した水穂の顔写真のデータと、犯人グループの女の顔認証の結果が一致しました。犯人グループの映像を見た主任がまさかと思って、水穂のデータで顔認証をかけてヒットしたようですね』

 先日殺害された紺野萌子は、春に世間を騒がせた21世紀の切り裂きジャック、陣内克彦と親密な関係にあったと思われる。

萌子の同級生、山岸勇喜は21世紀の切り裂きジャックを模倣した月曜日の切り裂きジャック。
萌子と共に陣内の教え子だった勇喜も陣内の思想に傾倒していた。

その姉が紅椿学院高校に立てこもっている犯人グループの一味。
これは偶然が呼び寄せた必然?

『なぁ神田、河原水穂の住所って……』
「南千住八丁目。現場に近い場所にあったあのマンションね」

 美夜は九条に頷き返す。
河原水穂のデータに記載された現住所は、荒川区南千住八丁目。紺野萌子が殺害された緑地公園の側に建つ、巨大なマンション群のひとつだった。

膨大な情報をひとつひとつ脳裏に浮かべ、データの処理と整理を繰り返して彼女は黙考する。美夜の予感が正しければ紺野萌子を殺した犯人は……。

(勇喜の姉がもうひとりの月曜日の切り裂きジャックだとして、姉を庇う勇喜、勇喜と肉体関係を持った萌子、萌子が所持していた間宮の〈殺人衝動〉、萌子の無意識の上から目線と所持品から消えたスマホ……)

 紺野萌子殺しと月曜日の切り裂きジャック事件。
この二件を解決に導くには、まず目の前に立ちはだかる学校立てこもり事件を解決しなければならない。

 告発動画を流した動画配信サービスのアカウントの持ち主も判明した。
アカウント所有者は宮島知佳。前科はなく、動画配信アカウント開設の際に登録された個人情報によれば年齢は二十歳。

防犯カメラで確認できた犯人グループの若年女性は二人。若い二人の女の身体的特徴は対照的で、ひとりはショートヘアで長身痩せ型、もうひとりはロングヘアの中肉中背だった。

河原水穂はショートヘアーの痩せ型であるから、ロングヘアで中肉中背の女が宮島知佳だろう。
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