〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
『九条、犯人グループに繋がる手がかりを雪枝は言っていなかったか? この数ヶ月で誰かと知り合っただとか、彼女の学校以外の交遊関係について、何でもいいから思い出してくれ』

 上野一課長に問われた九条は困り果てた顔で眉間にシワを寄せた。

 滝本航大を含めた千葉県館山市のリゾートホテル開発計画反対派メンバーと木羽会の生き残りの構成員、東京都在住の河原水穂と宮島知佳、紅椿学院高校生徒の大橋雪枝、彼ら彼女らを結ぶ繋がりはいまだ不明。

身元が判明している人間を例に挙げても千葉県在住者、ヤクザ崩れの前科者、月曜日の切り裂きジャックの姉、二十代のフリーター、私立女子校に通う高校生。

年齢と居住地の情報だけでは、犯人グループと雪枝の接点がまったく見えない。

『犯人グループに繋がるかはわかりませんが、夏に雪枝ちゃんと会った時に匿名のチャットアプリを利用していると聞きました。チャットアプリで知り合った人に色々と相談に乗ってもらっていると……』

 各方面から刑事達の落胆の溜息が聞こえた。犯人グループのメンバーに統一性がない犯罪の場合、大概が犯人達はインターネットを介して知り合っている。

 落胆の空気が図書室に充満し始めたタイミングで、表で門番をしていた警官が控えめに扉を開けた。

『上野一課長、夏木コーポレーションの会長代理を名乗る方が一課長に面会したいと。こちらで身元と所持品を確かめましたが、不審な人物ではなさそうです』
『通してくれ』

 警官の後ろから現れた黒いスーツの長身の男は、落胆に包まれた場の空気を瞬時に拐《さら》った。
誰もが、息を呑んだ。そして男を目にした誰もが次に視線を注いだのは、神田美夜だった。

『夏木会長の秘書をしている木崎と申します。会長の代理で参りました』

 刑事達の狼狽の視線を一気に集めても、木崎愁の立ち姿は悠然としている。椅子から立ち上がった上野が本部の責任者だと名乗り、上野と愁が会釈をかわす間も美夜は彼を見つめ続けた。

もう会わないと誓って別れた男と戦地で再会するとは、一体何の因果だろう。視線に気付いた愁が苦笑して美夜と九条に顔を向けた。

『そんなに驚くなよ。相棒も揃いも揃って、化け物見たような顔してるな』
「私はそこまで驚いてもない。舞ちゃんが人質にされている状況で、会長秘書のあなたが出て来ないはずがないもの」

 半分は強がり、半分はシミュレーション通りだ。愁の立場を考えれば、会長代理で彼が対策本部に現れる展開も容易に想像できた。

 愁には夏木十蔵専属の殺し屋、ジョーカーの嫌疑がかけられている。彼はそれを承知で警察の陣営に乗り込んできた。
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