〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
「九条くんが雪枝ちゃんの万引きを止めた時も、その後に甲斐甲斐しく世話を焼いてるのを知った時も嫌な予感はした。綺麗事って、幸せな傍観者が吐く夢物語だからね。その立場に立った経験がない人にはわからない。雪枝ちゃんが九条くんに本当の気持ちを話せなかったのも、当たり前だよ」
『そう言えばお前は雪枝ちゃんに深入りするなって言ってたよな。綺麗事が嫌いなお前の意見が、結局は正しかった』

 銃本体から引き抜いたマガジンに彼女は弾をひとつひとつセットする。マガジンに装填できる弾数は八発。
弾切れに備えて予備のマガジンも用意されていた。

「九条くんは太陽の下を歩いている人だもの。だから平和主義で呑気な綺麗事を平気で言える。九条くんは本気で誰かを憎んだことも、誰かを殺したいと思ったこともないでしょう?」

 八発入りのマガジンが挿入された拳銃を九条の傍らに置いた。九条の躊躇いの視線が、銃と美夜の顔を行き来する。

「だけど綺麗事を吐き続けるお人好しに救われている人もいる。私もお人好しでお節介な九条くんの綺麗事に救われてるよ。あなたがバディで良かったと思ってる」

 これが美夜の正直な気持ちだった。お人好しでお節介がいなくなった世界には、冷たい人間しか残らない。

美夜は“いい人”も”綺麗事”も大嫌いだ。でもいい人も綺麗事も消えた世界は、きっともっと嫌いになる。

 太陽の恩恵は誰もが等しく必要とする。九条の陽だまりに美夜も知らず知らず救われていた。雪枝も同様だろう。

「太陽なら太陽らしく、明るく笑って綺麗事吐き続けなさいよ。雪枝ちゃんはお人好しでお節介な、正義のヒーローの九条くんを待ってる。今さら雪枝ちゃんから逃げないで」

 肩で大きく息を吐いた九条が銃を掴む。刑事の責任の重みを確認した彼は、勢いよく立ち上がった。

『俺の相棒は言うことがキツいんだよ。て言うか俺、太陽じゃねぇし。あんなにギラギラと暑苦しくないぞ?』
「相棒が暑苦しい太陽だって言ってるんだから太陽でいいの。あと、さっきの発言を木崎さんに謝って。彼も気持ちは九条くんと同じだよ」

 九条はバツが悪そうに愁に顔を向ける。美夜はあえて愁を見ず、もうひとつの銃のマガジンを取り出した。
暴言の後始末は男同士で勝手にやればいい。

『大人げなく八つ当たりして悪かった』
『別に気にしていない。こちらも舞のワガママを教育できなかった落ち度がある。同級生へのいじめは、俺達が舞を甘やかし過ぎた結果だ。申し訳なかった』

互いに否を認め、謝罪する彼らは一応の和解をしたと言える。
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