〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
「敷地内、全員入りました」

 対策本部に繋がるインカム越しに真紀に状況を報告する。

{SITの第一部隊を向かわせた。あなた達がそこを通過した10分後にまずC棟から制圧する。それとさっきの神田さんの提案は、一課長が上に掛け合ってるから}
「お願いします。学校のセキュリティシステムをこちら側で操作できるなら、おそらく可能なはずです」

 立てこもっている犯人達の経歴やこれまでのやり口を見る限り、犯人グループに情報機器に強い人間はいない。
学校を占拠して外部との接続を遮断したつもりでも、警察は易々と学校のセキュリティシステムのハッキングに成功した。

犯人グループにひとりでも情報機器に精通した人間がいれば、校内の防犯カメラ映像の入手も難しかった。

{現在の防犯カメラの映像では滝本と巻田、水穂、木羽会の吉井が見当たらない。奴らがどこに潜んでいるかわからない。周りに注意して}
「了解」

 学校を出る直前に確認した映像では、滝本はA棟の一階廊下、巻田と水穂はA棟四階の廊下で姿を記録されている。木羽会の吉井はC棟の三階と四階を繋ぐ階段の踊場にいた。

滝本、巻田、吉井、水穂。姿の見えない四人は、防犯カメラの取り付けがされていない場所に潜んでいるのか?

 三人は裏門から敷地内に伸びる小道を歩く。ここから見えるC棟の教室は外から中の様子を窺わせないためにカーテンが締め切られていた。

カーテンの向こうにいるであろう怯えた生徒達。C棟二階の社会科教室に中等部の生徒が、四階の理科室に高等部の生徒が閉じ込められている。

 裏門を通過して1分が経つ。あと9分後にSIT第一部隊のC棟制圧が開始される。
美夜と九条に与えられた任務は囮《オトリ》と撹乱《かくらん》、A棟五階の教室までの突破口を開くこと。

 A棟、B棟、C棟、すべての棟が見渡せる中庭の中央部には噴水があり、噴水を囲うように白塗りのベンチが配置されている。気候の良い昼休みに、ここでランチタイムを過ごす生徒の光景が目に浮かぶ。

 今はそのベンチに男が座っていた。大柄で丸刈り頭の男は、このフレンチシックな中庭では非常に浮いた存在だ。
第一関門突破の相手は意外にも、犯人グループのリーダーと目された滝本航大だった。

『刑事が二人と……そこにいるのは夏木会長の秘書だな。10年前には見なかった顔だ。有能な会長秘書の評判は巻田くんから聞いてる』

 愁の情報も夏木コーポレーション元社員の巻田を通して、犯人側に筒抜けのようだ。銃を構えた九条が滝本に詰め寄った。

『滝本、降伏しろ。学校の周囲は警察が包囲した。逃げられないぞ』
『降伏する気も逃げる気もない。俺達は全員、“奪われた者達”だ。館山の平和な暮らしを夏木十蔵は金儲けのために破壊した。だから今度は俺達が命を懸けて壊してやるんだよ。夏木十蔵が築いた腐った城をな』

 ハッカーを擁していない彼らを美夜が厄介だと感じた点がひとつある。少なくとも滝本は死を恐れていない。
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