〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 さすがは有名私立女子校と感心している場合ではないが、敷地全体に金の臭気がまとわりついている。

七階建てのA棟は中庭と同じくフレンチシックな外観をしており、校舎は少女マンガの実写映画やドラマの撮影場所に何度も使われている。

 一階の昇降口も、美夜が通っていた埼玉の公立高校とは比べ物にならない規模だ。各クラスの下駄箱の間隔がこれだけ広ければ、靴の着脱時に生徒同士がぶつかったり、順番を待つ必要もないだろう。

 銃弾は左方向から飛んできた。広大な昇降口を支える円柱型の柱の後ろまで走り込み、美夜は柱の裏に身を隠す。
インカムに入ったC棟制圧完了の知らせを合図に、彼女は銃のセイフティを外した。

下駄箱の狭間から銃を構えた梶浦が姿を見せる。人相の悪い梶浦は、いかにもヤクザの世界に片足を突っ込んだチンピラの風体をしていた。

『警察にも美人っていたんだな。あんた、めちゃくちゃ俺好み』
「言っておくけど私はあなたみたいな男は好みではないし、あなたと遊んでる時間もない。さっさと終わらせて上に行きたいのよね」
『つれないなぁ。爆弾なんか放っておけばいいさ。あいつらは死にたくてやってんだから。俺はここで自爆なんかまっぴらごめんだ。親《おや》っさんの仇《かたき》のジョーカーと夏木十蔵をぶっ殺すまでは死ぬに死ねない』

 巻田と繋がっていた木羽会の目当ては、やはり組を壊滅させたジョーカーへの復讐。それなら梶浦は何故、美夜ではなくジョーカーである愁を狙わなかった?

「あなたはジョーカーの顔を知ってる?」
『知らないね。でもジョーカーが夏木の手下って話は俺らの世界では有名だ。人質にしてる夏木の娘も高値で売れそうだしなぁ。夏木の娘を餌にすればジョーカーが現れるかと思ったんだが、釣れたのは美人の刑事だった。これも悪くねぇな』

梶浦と吉井の所属は、木羽会の二次団体。幹部でもない彼らが知り得る情報は微々たるもの。

梶浦は滝本達の計画に便乗してジョーカーをあぶり出すつもりだったらしい。梶浦が愁の正体を知らなかったことに安堵した自分に嫌気が差す。

 口元を緩ませて近付いてくる梶浦の舐め回す視線も気持ち悪い。どいつもこいつも、女を見れば頭の中は下品な想像で埋め尽くされる。
一刻も早くこの銃撃戦を終わらせたい。

 九条と愁、それとSITの捜査員がこちらに向かっているとインカムに知らせが入る。動くならそろそろだ。

 姿を見せた美夜を狙って、先に発砲した梶浦の銃弾が床を跳ねる。駆け出した彼女は下駄箱を盾にしつつ梶浦に狙いを定め、連続して二度、引き金を引いた。

一発目は銃を構える肩に、二発目は太ももに狙い通り弾が命中する。
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