〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
 まだ美夜達には最後の仕事が待っている。爆発までの残り時間は30分。

「九条くん、雪枝ちゃんの説得できそう?」
『俺がやるしかない。このメッセージを見て確信した。雪枝ちゃんは俺を待ってるんだ』

 九条と雪枝のトークアプリのメッセージ欄には、雪枝が応答してくれなかった通話の通知と「ごめんなさい」の文字が寂しげに並ぶ。

 雪枝が設定しているトークアプリのアイコンは、夕焼け空の写真だ。美夜はこれまでも捜査の一貫で嫌と言うほど高校生のスマートフォンを閲覧してきた。

十代少女のトークアプリのアイコン画像は友達や彼氏と写った写真やプリクラ、愛犬や愛猫の写真が多い印象だ。真っ赤な太陽に染められた夕焼け空のアイコンは綺麗ではあるが、言い様のない物悲しさも孕《はら》んでいる。

 五階、高等部一年生の廊下は小声で交わす会話や控えめな足音さえも周囲に届いてしまうほど、静寂に満ちていた。

高等部は全部で七クラス、美夜達から見て右側にAからDの四クラスが、左側にEからGの三クラスが並んでいる。C組は右サイドの手前から三つ目の教室だ。

他のフロアより一段と緊迫を濃くした異様な空気が五階に膜を張っている。廊下側の窓越しに、教室に閉じ込められている生徒や教師が震える眼差しをこちらに送っていた。

 立てこもり早々に犯人グループが流した校内放送では、五階にいる教師と生徒がひとりでも教室の外に出れば、タイムリミットの16時を待たずに爆弾を爆破させると脅しをかけたそうだ。

だから五階のクラスで授業を受け持っていた教師も生徒も、教室でじっと警察の救助を待っている。巻き込まれた人達のためにも早急にこの事件を終わらせたい。

 異様な空気の根源、1年C組に辿り着いた。教室の扉を開けた先にいたのは椅子に縛られてうつむく舞と、舞の側に仁王立ちする雪枝だ。

ここに来る間に美夜と九条は銃をホルスターに戻していた。雪枝とは話し合いで解決したいと申し出た九条の想いを、美夜は汲んだ。

『雪枝ちゃん、迎えに来たよ。こんなことはもう止めよう』

 九条の顔も見ずに雪枝は首を横に振る。二つ結びにしたセミロングの髪が左右に揺れ、長めに伸びた前髪の隙間から、湿っぽい瞳が覗いていた。

「来て欲しいのに来て欲しくなかった。九条さんにだけは会いたくなかった」
『俺は会いたかったよ。会いたかったからここまで来たんだ』
「でも神田さんも一緒なんだね」
『相棒だからね。神田さんも雪枝ちゃんを助けに来てくれたんだよ』
「……助ける? 逆でしょ。九条さんも神田さんも私を逮捕しに来たんだよね」

 年上の男への恋慕を隠せなくなった少女は、ニヒルな笑顔を浮かべた。口元を斜めにして嗤《わら》う雪枝は、九条ではなく美夜を見ている。
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