〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
九条と美夜のバディ関係を、社会人でもなく警察官でもない雪枝がどの程度正しく理解しているかは知らない。利発な雪枝は、頭では九条と美夜が行動を共にする事情を職務上の理由からだと理解はしている。
しかし四六時中、好きな男の側を当然な顔で独占する女は、恋をする女の邪魔者でしかない。
「九条さん達が助けに来たのはこの子だよね? このいじめっこのワガママ姫を助けるためにそんな怪我までして……」
雪枝の対応は九条に任せ、美夜はこの教室内で雪枝よりも誰よりも、美夜の登場を驚いている少女に微笑みかけた。
「舞ちゃん、私のこと覚えてる? 夏に一度会ったよね」
立てこもり開始から3時間が経過している。3時間も椅子に縛り付けられたままの舞の表情は憔悴していた。排泄行為も禁じられ、飲み物も飲ませてもらえていないのだろう。
これでは監禁と同じだ。舞が雪枝に行っていたいじめの程度は定かではないが、SNSや動画で現在の舞の姿を晒し者にした雪枝の仕返しは酷すぎる。
美夜を見据えた舞は小さく頷いた。捕らわれの少女が絞り出した声は、かすれて小さい。
「……覚えてる。……愁さんの……」
「ごめんね。あの時、私はあなたに嘘をついた。私の仕事は公務員ではあるけれど、区役所の職員ではなく警察官なの。私は刑事だから舞ちゃんも雪枝ちゃんも両方助けに来た。でもここに、舞ちゃんが学校で何をしていようと、舞ちゃんだけを命懸けで助けに来た人がいる。誰かわかるよね?」
美夜の背後に控えていた愁を目にした舞の瞳に、みるみる涙が溜まっていく。
「愁さん……」
『舞、遅くなって悪かった』
「来てくれたんだ……」
『今日は迎えに行くって朝に言っただろ?』
舞への慈愛に満ちた愁の優しい声。舞がいじめの主犯だろうと世間から中傷を受けようと、愁にとって舞は大切な妹だ。
彼がどんなに舞を家族として愛しているか、美夜は知っている。愁のこんなに優しい声は彼女も初めて耳にした。
美夜と九条が背負う命は人質一四〇〇人分でも、愁はただひとりの妹のために命を張ってここまで乗り込んできた。
愁は最初から舞の救出しか眼中にない。冷酷な人殺しのくせに、妹のためなら自分の命も惜しまず助けようとする。
木崎愁とはそういう男だ。
舞が座る椅子の下には黒々とした四角い塊が鎮座していた。わざわざ舞の下に爆弾を仕掛けるとは、犯人グループも底意地が悪い。
舞へと近付く愁の行く手を雪枝が阻《はば》んだ。雪枝に銃口を向けられても愁は動じない。
未成年の少女相手に命乞いをする男でもないが、この状況に怯えを示したのは愁ではなく舞だった。
「ゆきちゃん止めて! 愁さんを撃たないでぇっ!」
「そう、その顔が見たかった。夏木さんが学校で愁さん愁さんって言って騒いでる好きな人って、この人だよね? 好きな人を目の前で殺されたくなかったら私に謝りなさい。私をいじめたこと、あなたの好きな人の前で謝罪しなさい」
かすれた声で泣き叫ぶ舞と他人に銃を突き付けて嘲笑う雪枝、今はどちらがいじめの加害者か、雪枝はそろそろ現実を自覚するべきだろう。
しかし四六時中、好きな男の側を当然な顔で独占する女は、恋をする女の邪魔者でしかない。
「九条さん達が助けに来たのはこの子だよね? このいじめっこのワガママ姫を助けるためにそんな怪我までして……」
雪枝の対応は九条に任せ、美夜はこの教室内で雪枝よりも誰よりも、美夜の登場を驚いている少女に微笑みかけた。
「舞ちゃん、私のこと覚えてる? 夏に一度会ったよね」
立てこもり開始から3時間が経過している。3時間も椅子に縛り付けられたままの舞の表情は憔悴していた。排泄行為も禁じられ、飲み物も飲ませてもらえていないのだろう。
これでは監禁と同じだ。舞が雪枝に行っていたいじめの程度は定かではないが、SNSや動画で現在の舞の姿を晒し者にした雪枝の仕返しは酷すぎる。
美夜を見据えた舞は小さく頷いた。捕らわれの少女が絞り出した声は、かすれて小さい。
「……覚えてる。……愁さんの……」
「ごめんね。あの時、私はあなたに嘘をついた。私の仕事は公務員ではあるけれど、区役所の職員ではなく警察官なの。私は刑事だから舞ちゃんも雪枝ちゃんも両方助けに来た。でもここに、舞ちゃんが学校で何をしていようと、舞ちゃんだけを命懸けで助けに来た人がいる。誰かわかるよね?」
美夜の背後に控えていた愁を目にした舞の瞳に、みるみる涙が溜まっていく。
「愁さん……」
『舞、遅くなって悪かった』
「来てくれたんだ……」
『今日は迎えに行くって朝に言っただろ?』
舞への慈愛に満ちた愁の優しい声。舞がいじめの主犯だろうと世間から中傷を受けようと、愁にとって舞は大切な妹だ。
彼がどんなに舞を家族として愛しているか、美夜は知っている。愁のこんなに優しい声は彼女も初めて耳にした。
美夜と九条が背負う命は人質一四〇〇人分でも、愁はただひとりの妹のために命を張ってここまで乗り込んできた。
愁は最初から舞の救出しか眼中にない。冷酷な人殺しのくせに、妹のためなら自分の命も惜しまず助けようとする。
木崎愁とはそういう男だ。
舞が座る椅子の下には黒々とした四角い塊が鎮座していた。わざわざ舞の下に爆弾を仕掛けるとは、犯人グループも底意地が悪い。
舞へと近付く愁の行く手を雪枝が阻《はば》んだ。雪枝に銃口を向けられても愁は動じない。
未成年の少女相手に命乞いをする男でもないが、この状況に怯えを示したのは愁ではなく舞だった。
「ゆきちゃん止めて! 愁さんを撃たないでぇっ!」
「そう、その顔が見たかった。夏木さんが学校で愁さん愁さんって言って騒いでる好きな人って、この人だよね? 好きな人を目の前で殺されたくなかったら私に謝りなさい。私をいじめたこと、あなたの好きな人の前で謝罪しなさい」
かすれた声で泣き叫ぶ舞と他人に銃を突き付けて嘲笑う雪枝、今はどちらがいじめの加害者か、雪枝はそろそろ現実を自覚するべきだろう。