〜Midnight Eden〜 episode5.【雪華】
『雪枝ちゃん止めるんだ。今の雪枝ちゃんはいじめをしている人間と変わらない。君がしたことは、この学校にいる全員をいじめたようなものだよ』
「九条さんまでこの子の味方するの?」
『そうじゃない。俺は薄々、君がいじめられていることに気付いていた。なんとかしてやりたかった。でも刑事であっても外部の人間が学校の問題に口を出すには限界があるんだ。力になれない無力な俺でごめん。助けてあげられなくてごめん』
雪枝の小さな小さなSOSに気付いた大人は親でも教師でもなく、九条だった。
美夜は世間的に定義されるいじめと呼ばれる行為を受けた経験がない。彼女の人生において、佐倉佳苗の存在を除けば成績や容姿への妬みの陰口はあれど、いじめグループの標的にされた覚えはなかった。
だが彼女は捜査を通して数々の大人の世界と子どもの世界のいじめ問題に触れた。そうしてわかったことがある。
いじめられている人間は時としてその事実を隠したがる。親や恋人や配偶者、いじめグループ以外の友達には、自分はいじめを受けていないと無理やり虚勢を張る。
本音は地獄から助けて欲しい。誰かに弱音を吐き出したい。
そんな小さな小さなSOSをやっと吐露できた安寧の場所でも、雪枝は大人達に利用された。
「九条さんにはいじめられてること知られたくなかった。知って欲しかったけど知られたくなくて言えなかった。だけど助けて欲しくて、事件を起こせば九条さんがここまで来てくれるかなって期待して……ワガママでごめんなさい」
『どれだけワガママ言ってくれてもいいんだよ。雪枝ちゃんはイイコを演じ過ぎるんだ。お父さんやお母さんの前でもそんなにイイコにならなくていいんだよ。ワガママは子どもの特権なんだから。さ、その銃を俺に渡して、こんなことはもう終わりにしよう』
九条が片手を差し出しても雪枝は彼を拒絶した。プラスチックのおもちゃに似た拳銃を持つ両手が震えている。絶対に離さない意思表示か、彼女は銃を胸に抱き抱えた。
「私は夏木さんを許せないっ! 私は正しいことを言っただけなんだよ? 掃除をやりなさいよって……。なんでいじめられるの? 間違ってるのは夏木さんと夏木会長の言いなりになるこの学校よっ! こんなはずじゃなった。小学生の時から憧れていたこの学校で友達いっぱい作って勉強も頑張って、楽しい生活を送る予定でいたのに……夏木さんさえいなければもっと私は高校生活を楽しめたはずなのに……」
雪枝の嗚咽が教室に響く。滝本の言葉を借りれば、立てこもりの犯人グループは“奪われた者達”で構成されている。
雪枝が奪われたものは夢見ていた理想の高校生活。夏木舞がいなければ叶っていたかもしれない幻のユートピアだ。
「九条さんまでこの子の味方するの?」
『そうじゃない。俺は薄々、君がいじめられていることに気付いていた。なんとかしてやりたかった。でも刑事であっても外部の人間が学校の問題に口を出すには限界があるんだ。力になれない無力な俺でごめん。助けてあげられなくてごめん』
雪枝の小さな小さなSOSに気付いた大人は親でも教師でもなく、九条だった。
美夜は世間的に定義されるいじめと呼ばれる行為を受けた経験がない。彼女の人生において、佐倉佳苗の存在を除けば成績や容姿への妬みの陰口はあれど、いじめグループの標的にされた覚えはなかった。
だが彼女は捜査を通して数々の大人の世界と子どもの世界のいじめ問題に触れた。そうしてわかったことがある。
いじめられている人間は時としてその事実を隠したがる。親や恋人や配偶者、いじめグループ以外の友達には、自分はいじめを受けていないと無理やり虚勢を張る。
本音は地獄から助けて欲しい。誰かに弱音を吐き出したい。
そんな小さな小さなSOSをやっと吐露できた安寧の場所でも、雪枝は大人達に利用された。
「九条さんにはいじめられてること知られたくなかった。知って欲しかったけど知られたくなくて言えなかった。だけど助けて欲しくて、事件を起こせば九条さんがここまで来てくれるかなって期待して……ワガママでごめんなさい」
『どれだけワガママ言ってくれてもいいんだよ。雪枝ちゃんはイイコを演じ過ぎるんだ。お父さんやお母さんの前でもそんなにイイコにならなくていいんだよ。ワガママは子どもの特権なんだから。さ、その銃を俺に渡して、こんなことはもう終わりにしよう』
九条が片手を差し出しても雪枝は彼を拒絶した。プラスチックのおもちゃに似た拳銃を持つ両手が震えている。絶対に離さない意思表示か、彼女は銃を胸に抱き抱えた。
「私は夏木さんを許せないっ! 私は正しいことを言っただけなんだよ? 掃除をやりなさいよって……。なんでいじめられるの? 間違ってるのは夏木さんと夏木会長の言いなりになるこの学校よっ! こんなはずじゃなった。小学生の時から憧れていたこの学校で友達いっぱい作って勉強も頑張って、楽しい生活を送る予定でいたのに……夏木さんさえいなければもっと私は高校生活を楽しめたはずなのに……」
雪枝の嗚咽が教室に響く。滝本の言葉を借りれば、立てこもりの犯人グループは“奪われた者達”で構成されている。
雪枝が奪われたものは夢見ていた理想の高校生活。夏木舞がいなければ叶っていたかもしれない幻のユートピアだ。