七槻くんの懐き度
「普通はね? でも告って、『返事は待ってもらっていいですか』なんて言われてみ」
「二つ返事じゃないってことは好きじゃないと愕然とした、そう聞いたよ」
「分かってるならもっと反省して。トラウマだよあんなの」
まさか七槻くんに告白されるとは思っていなかった、そんな動揺をしていたせいもあって(実際、少し考えたいなとは思ったのだけれど)迷わずそう口走ってしまった、そんな3ヶ月前のことを七槻くんはまだ引き摺っている。
七槻くんのことを“仕事の鬼”以上に思ったことはなかった。恰好いい人だなとは思っていたけれど、あくまで一般論というか、印象の話に過ぎないというか、とにかく恋愛的な興味は湧かなかった。入社当時は彼氏がいたというのもその理由のひとつだったとは思う。
一緒に残業する時間が増え、一緒に夕食を摂ることも増え、話の流れで何度かデートみたいなこともして。七槻くんのことが気になる、好きまでもう少し、でも七槻くんと付き合うと周りの目が気になる、となるとナシかなあ、そんなことを考えていたとき、七槻くんからのデートの誘いがぱったり途切れた。どうやら自惚れだったらしい、もともとナシかなとも思ってたし、それならそれで仕方がない、とりあえず彼氏は欲しいからマッチングアプリでもやろう。告白されたのは、そんな行動をとった矢先だった。
「そもそも、莉桜《りお》は経過からもうトラウマ。ちょっと仕事忙しくなった隙に男作ろうとするから」
「あれは維織《いおり》にもその気がないもんだと思って」
「多忙に多忙を極めてただでさえメンタル削られてるときに好きな女がマッチングアプリで他の男とメッセージのやりとりしてるのを目撃した俺の精神状態に対し30字程度で謝罪してほしい」
「『維織くんが目撃できる社内で軽率な行動をとり申し訳なかった』」
「模範解答は『最近誘ってくれないから脈なしだと諦めて軽く手を出しただけだよごめんね』です」
「でも結果的にちゃんと好きになったんだからよくない?」
「……結果的になんだよなあ」
もう一度キスされたし、腕に力がこもったと思ったら、首にも軽くキスされた。
「……ちゃんと俺のこと好き? 気遣ってない?」
「ふ」
「待って、なんで笑うの」
「会社だと俺のやることなすこと間違いはありませんみたいな顔してるから、おかしくて」
「莉桜は会社でも家でも、俺のやることなすこと興味はありませんみたいな顔してるよな」
「それはほら、バレたら困るから」
「どうだかな」
かぷかぷと首を甘噛みしていた七槻くんはおもむろに腰を上げた。
「二つ返事じゃないってことは好きじゃないと愕然とした、そう聞いたよ」
「分かってるならもっと反省して。トラウマだよあんなの」
まさか七槻くんに告白されるとは思っていなかった、そんな動揺をしていたせいもあって(実際、少し考えたいなとは思ったのだけれど)迷わずそう口走ってしまった、そんな3ヶ月前のことを七槻くんはまだ引き摺っている。
七槻くんのことを“仕事の鬼”以上に思ったことはなかった。恰好いい人だなとは思っていたけれど、あくまで一般論というか、印象の話に過ぎないというか、とにかく恋愛的な興味は湧かなかった。入社当時は彼氏がいたというのもその理由のひとつだったとは思う。
一緒に残業する時間が増え、一緒に夕食を摂ることも増え、話の流れで何度かデートみたいなこともして。七槻くんのことが気になる、好きまでもう少し、でも七槻くんと付き合うと周りの目が気になる、となるとナシかなあ、そんなことを考えていたとき、七槻くんからのデートの誘いがぱったり途切れた。どうやら自惚れだったらしい、もともとナシかなとも思ってたし、それならそれで仕方がない、とりあえず彼氏は欲しいからマッチングアプリでもやろう。告白されたのは、そんな行動をとった矢先だった。
「そもそも、莉桜《りお》は経過からもうトラウマ。ちょっと仕事忙しくなった隙に男作ろうとするから」
「あれは維織《いおり》にもその気がないもんだと思って」
「多忙に多忙を極めてただでさえメンタル削られてるときに好きな女がマッチングアプリで他の男とメッセージのやりとりしてるのを目撃した俺の精神状態に対し30字程度で謝罪してほしい」
「『維織くんが目撃できる社内で軽率な行動をとり申し訳なかった』」
「模範解答は『最近誘ってくれないから脈なしだと諦めて軽く手を出しただけだよごめんね』です」
「でも結果的にちゃんと好きになったんだからよくない?」
「……結果的になんだよなあ」
もう一度キスされたし、腕に力がこもったと思ったら、首にも軽くキスされた。
「……ちゃんと俺のこと好き? 気遣ってない?」
「ふ」
「待って、なんで笑うの」
「会社だと俺のやることなすこと間違いはありませんみたいな顔してるから、おかしくて」
「莉桜は会社でも家でも、俺のやることなすこと興味はありませんみたいな顔してるよな」
「それはほら、バレたら困るから」
「どうだかな」
かぷかぷと首を甘噛みしていた七槻くんはおもむろに腰を上げた。