パーフェクト・フィグ


話が読めたところで、
雅俊が口を開いた。


「それで、訴えられたか」


すみれはコクンと頷いた。


「助かったんだから、
 喜んでくれると期待してた。
 でも甘かった。

 自分の子どもが助かったのに、
 両親は専断的医療行為として
 慰謝料を請求してきた」


専断的医療行為。
患者や家族の同意のない、治療行為だ。

雅俊はその言葉に違和感を持った。


「それは親側のネグレクトじゃないのか」

「私もそう言って、裁判でもいいって言ったの。
 あなたたちが不利になるだけだって。
 そしたら訴えは取り下げられたけど、
 あることないこと噂されて…

 気づいたら西側じゃ、
 医者できなくなってた」


噂が出回れば、
当然その病院で患者を持ちづらくなる。

更に関西中の系列病院に
圧力でもかけられたのだろう。

雅俊は、最近似たような状況に陥った
友人がいたことを思い出した。


「それで、アメリカに行った」


これまた、その友人と同じ境遇だ。

後に梶木教授が拾ってくれた、
といったところだろうか。


「なるほどな」

「しかもその事故にあった子、
 結局、術後合併症になったって」


後から聞いた話だけど。
そう付け加えて、黙り込んだ。


「その合併症の治療は…」


雅俊が言うと、
すみれは何も言わずに首を振った。


「今生きているのかも
 …わからない」


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