青の葉の、向かう明日。
私がしばらく清澄くんの去っていった方向を見つめていると声がかかった。


「ここじゃ寒いし、あそこ行こうか」

「うん…」


あそこ、というのは私と江波くんだけが知っている秘密の場所。

海にぽつんと浮かぶ使われなくなった一隻の船の中のこと、だ。

幼い頃、そこで遊んだり、宿題をもってきて一緒にやったりしていたんだ。

バス停から船場までは歩いて数分の距離。

なのに、うまく歩けているか分からない。

真冬の夜だから耳が千切れそうなくらい冷え込み、手足の感覚がなくなりそう。

小刻みに震えながら小股で歩いていると、半歩先を歩く江波くんが立ち止まり、振り返った。


「こんなこというのもなんだけど、さ。手…繋いでいい?ほら、有寒そうだし」


手を繋ぐ…?

なぜ?

どうして?

だって私たちは別れたんじゃ…。

いくら寒いからって、元カレには甘えられない。

そんなこと許される訳がない。

そんな権利私にはない。

私は首を左右に振った。


「そっ、か。なら、早く行こう」


江波くんはそれだけ言って先を急いだ。

私も置いていかれないように早足になる。

ずっとこうやって追いかけてきたはずなのに、今ではもう躊躇われる。

私たちの関係は…壊れてしまったんだ。

私の、せいで。

そう改めて痛感して目の奥がじんとなり、鼻の奥がツンとなった。
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