青の葉の、向かう明日。
「有、待ってたよ。大丈夫?顔色悪いみたいだけど」

「うん…大丈夫」


有の彼氏ーー江波晴はぎこちない笑顔を見せながら彼女を心配していた。

それから少しの沈黙があり、気まずくなってか有は口を開いた。


「晴くん、その…聞きたいことって何?」

「あ、うん。そう…聞きたいことっていうのは…」


晴はいつになく歯切れが悪い。

有が人に危害を加えるなど全く見当もつかないが、もし仮に噂が本当だったとしたら、どう言葉をかければいいか晴には分からなかった。

だが、呼び出したのは晴自身。

ひとまず聞かねばという気持ちを後押ししたのは木枯らしだった。


「有は…その…突き落としたのか、明を?」


有は首を真横に振った。

その様子を見て晴の心は安堵でいっぱいになるかと思ったが、なぜか不安は拭いきれなかった。

それはきっと広まってしまった噂のせい。

もう少し話を聞き出そう。

晴は意を決して口を切った。


「有がやったんじゃないなら…2人は喧嘩してて何かの弾みで明が階段を踏み外して落ちたとか?って、俺の想像を言ってもしょうがないよな。有、詳しく話してくれるか?」


一日中尋問され憔悴しきった有をさらに問い詰めることに心が痛んだが、晴は有の言葉を待った。

しばらくして有はぽつぽつと昨日あったことを話し出した。

有の書いた小説が明の書いた脚本と酷似していたこと。

明が勝手に有の小説を盗んだため、話を聞こうとしたこと。

その後、明が階段の端にいき、まるで誰かに突き落とされたかのように足をわざと踏み外して落ちていったこと。

落ちた先にちょうど生徒が通りかかり通報されたこと。


普段あまり泣かない有が瞳に涙を充填させながら必死に話すのを見て晴は有が嘘をついていないと確信した。

話を整理して明にも話を聞いて、そして2人の仲直りの手助けが出来たら。

そう思い、晴はこう口にした。


「話は分かった。けど、一回待って。ちゃんと冷静になって整理してみるから。考えるから。そしたら…」


晴の話の途中で有は駆け出した。


「有!待って!」


追いかけようとしたところでちょうどスマホが鳴った。

晴は入試の件で担任と面談をすることになっていたのだ。


「っくそ…!」


晴は勢いよく階段を降りていく有の足音とは逆方向に歩き出した。

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