青の葉の、向かう明日。
この前と同じように1人分席を空けてベンチに座った。

今日は浮かれたカップルも、呑み帰りのおじさんもいない。

ただ月がきれいなだけ。

気まずいこの空気を優しく包み込むように見守ってくれているだけ、だ。


「…あのさ」


彼の口から白い息が漏れた。

あたしはちょっとだけ視線を斜め右に向ける。


「質問していい?」

「いいよ。だってそのためにこうして時間を設けたわけだし。どんどん質問して。あっ、そうだ。一応言っておく。お互いにNGなしね。秘密を作っちゃうと色々面倒だから」

「いや、でもプライバシーってもんが…」

「逆に聞くけど、そんな深くまで踏み込むつもり?別に事実が知りたいだけなら表面だけ掬えばいいだけじゃん。あとは投げられたあたしが誠実に答えるだけ。嘘はつかない、必ず」


彼はジト目でこちらを見て来たが、やがて何かを諦めたような顔になり質問を始めた。


「じゃあまず最初の質問。君が有の小説を盗作したってのは本当?」

「うん」


たぶん君なら勘づいていたと思うけどね。

それはまだ言わないでおく。


「んじゃ、次。階段から落ちたって具体的にどこから?踊り場?」

「うん」

「そこで足を滑らせて…」

「いや、それは…ちょっと違う。面倒なことになるからクラスでは言わなかったけど本当は自ら死にに行ったっていうか…。うん…そう、意図的に階段に身を投げたってか、そんな感じ。もちろん有はあたしに指一本触れてないし、あたしも有を殴ったりとかしてないから。ただの口論てか、ううん口論でもないかぁ。パクったの?って聞かれて、そうだよって答えて。有が泣き出して、あたしはごめんてだけ言って。どんどん罪悪感が出て来て、自分のこと嫌になって…なんかもう全部捨てたくなって、それで…うん、そうなった」


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