青の葉の、向かう明日。
私と晴くんは幼い頃から見慣れた海を眺めていた。

乗る予定のバスがギリギリでダッシュしてしまったのだけど、チョコは崩れていないだろうか。

今まで一度も渡せなくて恋人になって初めて作った本命チョコ。

喜んでくれるかな?


「晴くん」

「何?って聞かなくても分かるけど。でもやっぱり聞きたい」

「じゃあ、リクエストに応じて…。えっと、その…これは……ほ、本命、チョコです。受け取ってください」

「はは。リクエストしておいてなんだけど、照れるな。有、ありがと」

「いえいえ」

「んじゃあ、早速いただきます」


皆から習って丁寧にラッピングしたリボンが解けていく。

中から金色の箱が出てくる。

パカっと中を開けるとハート型のチョコがお目見えする。

晴くんが口を開ける。

チョコが吸い込まれていく。

あぁ、溶けてきたかな?

美味しそう…。


「うんまっ!有、これめちゃくちゃ美味しい。ほら、有も食べて見ろよ」

「いや、でもそれは私が晴くんにあげたもので…」

「んじゃあ…こうするか」


ザザーっと波が押しては返す音が聞こえる。

なぜだろう。

ものすごく鮮明に、聞こえる。

反射的に目を閉じて

開けられない。

注ぎ込まれる生温かくて甘い何かが喉のあたりでつかえそうになって、

でもその苦しささえも愛おしい。

うまく息は吸えてないはずなのに、

熱を、

生きてるって感じを、

それに…

愛されてるって、

感じる。

強く強く…。


時間にしてほんの数秒のことだったのに、永遠のように長く感じた。


「どうだった?」


そんなこと余裕ぶって聞くことじゃない。

こっちは胸がバクバクしっぱなしで呼吸もままならないっていうのに。

でも、

この気持ちは確かだから。


「…甘かった」

「はは…俺も、すっごく甘かった」


甘さを軽減させるはずの潮風が吹いているはずなのに、なぜか加速していく。

甘いとしょっぱいって無限ループだって誰かが言っていた。

きっとそれに突入してしまったんだ。

永遠に、なっちゃったんだ。


私たちはチョコが溶け切るその時まで何度もおかわりをしていた。




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