外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 身内を疑う佐竹さんに周囲がどよめく。

「疑うのであれば勝手にどうぞ。わたしは自分の仕事をするまでです。どんなに気分が悪くともお客様には関係ありませんので!」

 失礼しますと雑に放ち、床を蹴って場を後にした。

(事務所内を探すと言うあたり、佐竹さんが関わっている可能性が高い。でも、ビジネスシューズを切り刻むだろうか?)

 一連の不手際を一樹くんのせいにするにしろ、外商部の信頼を損ねるのは本末転倒。しいては引責をとる羽目になるだろう。

「とにかく今は在庫を探さなきゃ!」

 佐竹さんの行動に違和感があるものの、今やれる事へ集中しよう。

 手帳を開く。ここには築いてきたコネクションを記してあり、片っ端から連絡を入れるしかない。

(一樹君の為、そして大郷百貨店の為にも!)




「ーーそうですか、いえ、こちらこそ。ありがとうございます。また宜しくお願いします」

 受話器を置き、メモ用紙へ赤線を引く。簡単に見付かるとは考えていなかったが、在庫探しは困難を極める。

 わたしがメーカー等へ問い合わせるのと並行し、バックヤードでは大規模な捜索が行われていた。靴があったとしてもカラー、サイズまで合致しなければ意味がなく。
 主任の真っ青な横顔に胸が苦しい。何故ならそこにビジネスシューズは存在しないからだ。

「深山さん」

 呼ばれ、沈んだ顔を上げる。

「佐竹さんはどちらへ?」

「あ、あぁ、昼食をとりにいったみたいです。それって防犯カメラの解析? 渡しておきますか?」

 事務所を隅々まで荒らした結果、何の成果も得られなかった佐竹さん。不貞腐れて早めのランチらしい。

「……はい、お願い出来ますか?」

「きちんと渡しますから安心して下さい」
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