外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 本気で困っているならば率先して在庫を探すはず。佐竹さんにそんな様子はなく、なんなら椅子を引いて足を組む。

「深山、バックヤードを確認して、見当たらないようならメーカー手配を頼む」

 揉め事を増やすなとばかり、両手を合わす主任。
 
「手配と言われましてもこちらはーー」

「廃盤モデルで現在取り扱いはされていない。市場価値も高く、新品の入手が難しいだろうな」

「ご存じならーー」

「これは花岡の案件だからな」

 先程からわたしの発言を遮ってばかり。

「後輩のフォローをする気はないんですか? お客様の要望に応えられないのは外商部としてあるまじき事では?」

「だからこうして君にお願いしに来たんだが? 花岡の教育係りである君にね」

 どう見てもお願いする態度じゃないが。しかし、これ以上話をしていても時間が勿体ない。呆れるわたしは退出しようとした。

「あー、そうだ! 俺も花岡が心配だから手伝いをしようかな。ここの家探しとか?」

「それはどういう意味でしょうか?」

 挑発的な物言いについ振り返ってしまう。

「バックヤードに防犯カメラが設置してあるのは知ってるよな?」

「えぇ、まぁ。それが何か?」

「高額商品が紛失したのだから確認をさせているよ」

「ですから、それが何かと聞いてます」

「我々は館内の出入りをする際、手荷物チェックを義務付けられているよな? 商品を勝手に持ち出さないように」
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