外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 佐竹さんは部下に防犯カメラを調べさせ、わたしと親しい同期を選ばない事からも公正な人選と言い難い。
 資料を受け取り、机上へ伏せ置く。

「あの、まだ何か?」

 立ち去らない彼に傾げる。

「バックヤードに防犯カメラがあるのは、うちの従業員なら知ってますよね?」

「そうですね、あってはならないですが不正の抑制にもなりますし」

「……」

 するとまた沈黙、わたしをじっと見詰めてきた。

「何か、わたしに言いたい事があるんですか?」

 言いたげな瞳に戸惑う。

「……花岡がドラマ撮影班に聞き込みを命じられてました。犯人は違うのに」

「え? それは」

 絞り出す声でそう伝えられた時、佐竹さんの靴音がする。
 そして佐竹さんはドアを開けるなり、資料へ一直線に歩み寄った。

「この報告はまだ誰にも上げてないな?」

 何故か、わたしを睨む。

「はい。深山さんも見てません」

「ならいい」

 資料はサッと回収され、2人は揃って出て行く。嵐みたいな入退出に唖然としてしまう中、次は内線が鳴る。

「深山さん、近藤様がお見えです」

「近藤様が?」

 問い合わせ作業も大事だが、本分をおそろかに出来ない。わたしはすぐさま売り場へ向かう。
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