外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「すまないね、連日訪ねて来てしまって」

「何をおっしゃいますか! いらっしゃいませ、近藤様」

 近藤様は珍しく男性を帯同し、秘書である旨を説明された。つまり仕事中の来店、ますます珍しい。

「いつも近藤がお世話になっております」

「こちらこそ近藤様にはご愛顧賜りまして」

 名刺交換ーーはたと気付く。
 記載された会社名は輸入靴を扱う代理店として名高い。

「今日は深山さんが靴を探していると小耳に挟んで、立ち寄らせて貰ったんだ」

「まさか!」

「弊社の担当が深山様からのご依頼と知らず、お断りをしてしまった様で。申し訳ありませんでした」

「そんな……」

 まさか、そんな、驚きの言葉が続かない。

「あのシューズは今度のパーティーでお披露目する計画だったんだが、君が探しているのなら譲ろう。どうだい?」

 と、近藤様。

「大郷百貨店様と弊社は取引実績もございます。近藤は深山様のお役に立ちたいと申しておりますが、如何でしょう?」

 秘書の方が補足する。

「こんな奇跡みたいなこと、わたしに起こるなんて」

 感極まり、声が上擦ってしまう。これが夢じゃないかと信じきれないでいると近藤様は微笑む。

「奇跡なんかじゃない、深山さんだから譲りたいと思った。外商案件なのだろう? 問い合わせを受けるのは初めてじゃないよ。それに国内外のシューズコレクターから譲って欲しいと連絡を貰う代物さ」

「近藤様、本当に宜しいんですか? ありがとうございます!」

 頭を下げても下げても足らない。

「あはは、何もタダで譲る訳じゃない、これはビジネスだ。だが、私は取引相手を選ぶ。商品の価値が分かる相手と仕事がしたい」

 握手を求められ、両手で応じた。
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