外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 室内は社長と兄だけが座し、他は立ち姿勢で事態の雲行きを伺う。俺に身の振り方など伺う余裕はない。

(起きた事をありのまま、正直に話そう)

 社長も業務で困った事がないか社交辞令で問い掛けただけで、これ程のドラブルが露呈するなど想定外のはず。それでも冷静に引き続き靴の在庫を探す指示を出し、犯人特定に動いてくれた。

「僕にも見せて!」

 社長は調査書類を受け取り、それを掻っ攫う兄。傍若無人な振る舞いを取り巻きが注意しようとするも手を翳される。

「この子が犯人?」

「本人への聞き取りはこれからです。お耳汚しになるだけですので社長や亮太様はーー」

 佐竹がやんわり言うと2人は揃って拒否。

「いや、最後まで見届けよう。そして、こんな事が起こらない体制を作らないといけない」

「うん、僕もそうする。見覚えないとはいえ、関係者じゃないと言い切れないし。ちゃんと確かめないとね」

 そうしているうちノックが響き、該当者が入室してきた。で、顔を確認する間なく彼女は床へ伏せてしまう。

「す、すいません! すいません! まさかこんな大事になるなんて思ってもみなくて、あたし、あたし!」

 付き添いの社員が立たせようとするが腰が抜けて動かない。行いがバレてパニックに陥り、泣きわめく。

「ゆっくりで構いませんので立てますか? お話を聞かせて下さい」

 佐竹に目配せされ、俺は屈むと手を差し出す。そこでハッと気付いた。

「あぁ、花岡さ〜ん、ごめんなさい! あたし、花岡さんを少し困らせたかっただけで」

 咄嗟に手を引っ込めたくなる。しかし、彼女は縋る風に握って逃さない。
< 104 / 116 >

この作品をシェア

pagetop