外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「プライベートを持ち込み、お客様にご迷惑を掛けるとは……見込み違いをしてしまったか」

「誤解です!」

 嘆きの表情でかぶりを振る佐竹。

「はぁ、深山君の後押しもあって君を外商部へ異動させたが、彼女の目もまた曇っていた様だ」

 真琴さんを引き合いに出すのは露骨な牽制。佐竹は躊躇なく俺のウィークポイントを握り潰そうとしてくる。

「深山君とは?」

 社長が真琴さんに興味を示す。

「彼の教育係をしている社員です。もしかするとこの件について何か知っているかもしれませんね」

(この場に真琴さんが呼び出されるのだけは避けたい)

 落ち着け、心の中で唱える。

 万が一にも交際する条件を飲んだとて、真琴さんを巻き込んだうえでのトラブルとして処理される。
 直接的な関与はしていないとしても佐竹が裏から手を回しているとみて構わないだろう。

 そして、俺の恋人はそんな卑怯を絶対に許せない。許さない。

 俺だって凛とした姿勢で仕事に取り組む姿、ボリュームある食事をペロリと平らげる姿、思い悩みながらも行動へ移せる姿、どの角度の真琴さんも失えない。

「自分は深山さんに販売員は商品を売るだけが業務でないと教わりました」

 立ち上がり、社長へ直訴した。佐竹と彼女が割り込もうとすると兄がストップをかける。

「いいじゃん、彼の言い分も聞いてみようよ。ね? 社長」

 社長が頷くのを確認し、傷付けられたビジネスシューズを手に取る。
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