外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 かたや社長も優先すべきは顧客対応であると認める。
 入手困難とされる品を佐竹が手配したとなれば、この件で被る泥は最小限どころか汚名返上まである。佐竹は自身の魅せ方が上手い。

 佐竹が退席の空気を演出すると彼女以外が支度を始める。社長と兄が何やら言葉を交わした後、俺を見た。

(このままでいいのだろうか?)

(だが、俺も靴を探さないといけない)

 呆然としていた彼女は佐竹によって引っ張り上げる際、怯えた表情へ塗り変わる。

(ひょっとして佐竹に弱みでも握られているのか?)

 彼女も張り巡らせた罠に掛かった1人なのかもしれない。思えば彼女から好意を寄せられたのは唐突、佐竹に亮太が兄だと知られたあたりから猛烈なアピールが始まった。

 彼女に同情はしないが、巧みな話術に絡み取られる感覚なら共有できそう。

 俺もそうであったように弱みを握られ行動を強要されたとしても、表向きでは自分が選んだ風に映る。

 佐竹は腐っても外商部のエースだ、犯罪行為はしないだろう。トップに立ち続け、数字を獲っていく為に障害は躊躇なく排除し、利用できるものは駆使していく。
 こういう販売員もいる。

(俺は佐竹みたいになれない。やはり俺はあの人のようになりたい)

「失礼します!」

 ーーその時だった。 

 俺達の前に靴箱を抱えた真琴さんが現れたのだ。 
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