外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する


 一樹君が社長や佐竹さん達と応接室に居ると聞き、じっとしていられなかった。彼のロッカーからビジネスシューズが発見されたのは証拠を手元に置いておくとともに、わたしを庇うため他ならないからだ。

 主任の制止を振り払い、ドアを開け放つ。ここに集う人の役職は把握している。わたしの進言を聞き入れて貰えるとは思えないが、一樹君を放っておけない。

(同僚として、教育係としてーーなにより大切な人を放っておけない)

 いきなり現れたわたしに一同、困惑している。どうやら話が纏まりかけていたらしい。項垂れた平場の彼女を見て察した。

「あはは、ヒロインは遅れてやってくる感じ?」

 亮太さんの姿まである。萌え袖の下からヒラヒラ振って沈黙を破り、わたしを真琴ちゃんと呼ぶ。

「お前、彼女を知っているのか?」

 社長が亮太さんへ問う。その口調からして2人は知り合いであるのが伺われるが、わたし以外も様子に驚いている。

「真琴ちゃんは優秀なシューフィッター。この靴も彼女がサイズ調整してくれたんだ」

 行儀が良くないものの、座ったまま足を上げて見せた。

「あぁ、そちらの靴は私が見立てーー」

「うん、佐竹さんが見繕ってくれた。確かにいいセンスで気に入る品ばかりだったよ。でもさ、靴を履くって意味で満足をくれたのは真琴ちゃん。僕は彼女にも感謝している」

 亮太さんはわざと佐竹さんの発言を最後まで言わせない。そればかりか、わたしへ会話のマイクを渡そうとする。
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