外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「何か言いたくて飛び込んできたんでしょう? 言っちゃえば?」

 解散しそうな気配がこの言葉で留まる。

「あ、えっ、そ、れではーー靴が見付かりました!」

 社長と亮太さんがどんな間柄か把握しきれないが、お言葉に甘えてまず一樹君へ靴箱を渡す。
 少しだけ触れた一樹君の手はひんやり冷たい、緊張しているんだろう。

(それも仕方ない、か。このメンバーに囲まれたら自分の意見など主張し難い)

 特に社長の存在感たるや否や、佇まいが眩しく自信にみなぎっている。写真や動画で拝見していたものの、こうして実際に会うとオーラがあるというか。

(……でもこの雰囲気、一樹君と似ているかも?)

「深山さん、これ、どちらで?」

 若干震えている声に我に返る。

「あ、あぁ、近藤様が譲って下さったの!」

 ビジネスシューズをどのように入手したのか、一樹君だけでなく全員へ説明しよう。

 これは自分の手柄だって話したい訳じゃなく、この騒動で沢山の人が動いたのだ。1人のお客様の為、大郷百貨店の為に。そこをここにいる上層部に知って欲しい。

「もちろん手配ができたから今回の件が丸く収まるとは考えていませんが、お客様の期待に応えたいと一丸となれたと思います」

 それからもう一言加えたい。

「花岡君はまだ経験が浅く、仕事に慣れない部分もあります。しかし、わたしは彼の教育係として彼が大郷百貨店に必要な販売員であるとはっきり言えます。この度はわたしの指導不足もあり、ご迷惑をおかけしました」

 申し訳ありません、頭を深く下げる。

「どうか花岡の成長を今しばらく見守って下さい。お願いします」
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