外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「一樹が1人前になるまで公言する気はなかったんだがね。深山さんの熱い気持ちに父親として心を動かされた。一樹は良い教育係に恵まれたな」

 つまり一樹君は大郷百貨店の経営者一族となる訳で……。

「真琴ちゃん、テンパってるねぇ? 花岡っていう名前を聞いて一樹が御曹司だと分からなかったの?」

 亮太さんがクスクス笑う。

(いや、だって一般の採用面接を経て入社してきたし)

 そもそも花岡という苗字だけで社長と繋げるのは無理がある。

 話に加わらない一樹君を伺うと伏し目がちで視線を合わせない。

(あぁ、そうか。一樹君はきっと自分の力で道を切り拓いて行きたかったんだ)

 人気アイドルが兄である事、社長の息子であるのも隠されていたが不快感は覚えなかった。だってその要素が無くとも一樹君に惹かれていたから。
 そしてーー要素があっても気持ちは揺るがない。

 緊張で張り付く喉を開き、言おう。

「花岡君が社長の御子息で人気アイドルの弟さんであろうと、わたしは彼は彼だと思います。仕事上でミスがあれば叱るし、成果を得たら一緒に喜びたいです」

 一樹君が視線をやっと上げてくれた。わた頷き、一樹ももう黙っていなくてもいいんだと微笑みを添える。

「花岡、こんな重要な事を黙っているなんて人が悪いじゃないか? つくづく君には驚かされるよ」

 佐竹さんがさっそく取り入ろうとし、一樹君は回されそうになった腕を露骨に避けた。
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