外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「佐伯さんはまず深山さんへ非礼を詫びるべきだ。それから彼女にも」

「何故? 彼女達に謝罪をしなければいけないんだい?」
 
 一樹君が社長の息子と知って萎縮する彼女に比べ、佐竹さんは開き直る。いや、開き直るというより悪いことをした自覚がまるでない。

「君の証言が必要です、話してくれませんか? あのビジネスシューズがお客様の依頼品であると、どうやって知ったんですか?」

「それは……佐竹さんが外商部の人と話しているのを盗み聞きして」

「直接聞いたのでは?」

「違います! 偶然話しているのを聞いちゃって。それで、花岡さんと近付けるんじゃないかと」

「シューズをあんな風にして?」

「ちょっと困らせるつもりだったんです〜希少な靴だって知らなくて! こんな大事になるとは思わなかったです」

 真実を話すよう説得されても首を横に振るばかり。ついには気分が優れなくなりふらついてしまう。

「おい、大丈夫か?」

 咄嗟に手を差し伸べたのはーー佐竹さん。そのまま彼女を支えながら退出しようとする。
 が、ノブを回す寸前で振り向く。

「私も大郷百貨店外商部の看板を背負っているつもりでいるんだ。共犯扱いするなら確たる証拠を示して欲しいものだな。
 とりあえず今は彼女を医務室へ運ぼう」

 彼女を連れて行くのを誰も反対はしない。主任もフォローに回り、肩を貸す。

「……これにて一件落着?」

 亮太さんが肩を竦める。

 現状、佐竹さんの関与を証明するのは難しい。本当に関与していたとして外商部エースが尻尾を出すような真似を迂闊にするはずがなく、佐竹さんが多くのお客様に支持されているのは事実。

 だからといって、彼と手を取り合い仲良しこよしでやっていけるかと言うとそれも出来そうにない。

「はっ、一件落着であるものか! 俺は佐竹とは違うやり方で、彼を超えてやる!」

 一樹君が決意と目標を新たにし、すっきりした幕引きとは言い難いものの、事態は収束していく。
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