外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する


 あれから数週間後。わたしはハイヒールを履いた目線でパーティー会場を見回している。
 ワイングラスに口をつけつつ、時刻を確認すれば約束から1時間は過ぎていた。

(まぁ、忙しそうだし)

 例の騒動により平場で働いていた彼女は解雇、佐竹さんと一樹君にも処分が言い渡され、いわく減給らしいが詳しい内容は教えて貰えない。

 変わらず外商部で働けるのは良かったのだがーー

(とにかく忙しいのよね)

 社長や上役が居る所で佐竹さんを超えると宣言した手前、今まで以上に邁進する恋人。せっかくのドレスアップも見てもらえず、不満はある。

(あるけどーー)

 心の中で販売員の自分と恋人である自分が自制を綱引きしていた。理解のある先輩彼女を演じたいが、これがなかなか難しくて。

 と、視界の先で近藤様が手招きをしている。

「こんばんは、本日はお招き頂きありがとうございます」

「やぁ、深山さん。とても素敵なドレスだね」

「ありがとうございます。それで先日はーー」

 ビジネスシューズを譲ってくれたお礼を告げようとしたらグラスを掲げられた。

「今夜は仕事の話はよそうか。ところでパートナーはいらっしゃってない?」

 すかさずグラスを重ね、頷く。

「はい……もう来るとは思うんですが」

「そうか、では二人揃ったらまた挨拶させて貰うよ」

 主催者である近藤様は当然わたしにだけ構ってもいられない。食事とワインのおかわりを勧め、他の招待客へ挨拶に回る。海外から招いたゲストも多く、人脈の広さが伺えた。
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