外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 実は後になって判明したのだが、近藤様は業界では大変有名な方だった。そうとも知らず新入社員の頃よりわたしをお引き立て頂き、感謝しかない。

(感謝と言えば……)

 クラッチバッグから携帯電話を取り出す。一樹君からの連絡はないものの、返信していないメッセージがある。

(亮太さんも仕事に集中しているみたい)

 いつぞやはアイドルという職業に誇りなど持っていないと言い切った彼だが、最近は身が入っている気がする。

 まず恋愛スキャンダルがなくなった。それに主演ドラマの視聴率が良い為か、演技について質問されるようになる。
 無論、わたしは販売員で俳優ではない。単純に彼が演じるシューフィッターの所作などに違和感がないか答えるだけ。
 もし、あのシューズが仕事へ打ち込む切っ掛けになったとしたら、それは嬉しい。

「兄貴とのやりとり、楽しいですか?」

 ディスプレイへ影が差し込む。

「……ええ、とっても。誰かさんに待ちぼうけをさせられてるんで」

 別に覗かれてやましい文面じゃない。拗ねた顔をするか、来てくれて嬉しいと笑うか迷って、結局曖昧な表情で彼を迎えた。

「遅れてしまい、すいませんでした」

「近藤様に言って」

「これはキレイな真琴さんを1人にさせてしまったお詫びです」

「お世辞が上手ね」

「勤務時間外に社交辞令なんて言いませんよ。とても似合ってます、キレイです、惚れ直しました」

 携帯を取り上げられ、新しいグラスを握らす。乾杯を期待する切れ長な瞳はわたしだけを映した。

「お疲れ様」

「お疲れ様です」

 チンッと小気味よい音が響く。

「それにしても豪華なパーティーですね」

「わたしは場違いよ」

「俺もです」

 とか言いつつ、一樹君は全く浮いていない。仕事を終えたスタイルで駆け付けたというのに。
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