外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 そう結論を導いた瞳が強気に尖り、わたしの毛先へ指を伸ばす。

「髪、今日は下ろされてるんですね。お揃いです」

「ーーっ!」

 反射的に仰け反ろうとしたら、通行人へぶつかりそうになる。

「糸くずがついてました」

 花岡君はすかさず引き寄せ、衝突は回避。触れてきた理由もしっかり付け加えてきた。

「ゴミが付いてるなら付いてるって口頭で伝えて! もう! びっくりするじゃない! ひょっとしてお客様にも?」

「そんな真似するはずないでしょう? 仕事とプライベートは分けてます。むやみに女性へ触れたりしません」

「じゃあ、なんでわたしにーー」

 言いかけ、続きが詰まる。

(思わせぶりな態度を取って、わたしが狼狽えるのを楽しんでいるの?)

 花岡君は小首を傾げていた。

(ううん、花岡君はそんな人間じゃない)

 教育係の自分が疑念を打ち消し、彼がそんな陰湿な事はしないと断言した。

「先輩、俺達も入場しましょう」

 花岡君がエスコートの構えをとる。

「こういうコンサート、よく来るの?」

「いえ全く。先輩は?」

「わたしも久し振り」

「俺も予習しておいて良かったです。応援うちわとペンライトも持ってきましたよ」

「う、うちわまで?」

「席に着いたら見せますね、自信作なんです」

 誘導されるまま歩いていく。ステージにぐんぐん近づいていき、気付けばVIP席へと到着した。
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