外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「ね、ねぇ、この席って関係者のーー」

「へぇ、そうなんですね。見やすくていい席じゃないですか! それより先輩、見て下さい」

 花岡君はわたしの戸惑いを放り、鞄からうちわを取り出す。

「はい、どうぞ」

 こんな席へ通され落ち着けるはずもないのに。うちわを受け取らずにいると握らせてくる。

「花岡君ってば! チケットくれた方って」

 『亮太ピースして』ゴシック体で綴られたメッセージを確認しつつ、混乱する頭の方を振った。

「そんなの誰だっていいじゃないですか? 楽しみましょう。こういうのは楽しんだもの勝ちです」

「……そうなんだけどね。何だか夢みたい、わたしなんかがいいのかなって」

「ははっ、良いに決まってます。どうして先輩が緊張してるんです?」

「緊張? それもあるけど、わたし、感動してるのかも。ちょっと泣きそう」

「え、まだコンサート始まってないのに?」

 何度も頷く。しかも手まで震えてきた。

「お、おかしいよね? どうしちゃったんだろう」

 こんな反応が現れるなんて想像してなくて。画面越しで追い掛けてきた人をこんな間近で見られると思ったら頭の中がふわふわしてしまう。

「亮太と恋人になりたいとか、本当に、そんなではないの。年甲斐もないね?」

「手、握ってもいいですか?」

 ことわりを入れてから両手で包んできた。

「年齢なんて関係ないです。好きな人に会えるのはいつだってドキドキワクワクするし、切なくもなります。俺だって同じですよ」
< 20 / 116 >

この作品をシェア

pagetop