外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「だから、わたしは別に好きとかじゃーー」

 否定はしきれなかった。まるで言わせないように指先へ力が込められたから。

「花岡君?」

 涼し気な目元の奥に言い得ぬ熱を察し、言及を尻込みする。
 すると彼はこちらを暫く見詰めた後、にっこり微笑んだ。

「はい、震えが止まって良かったですね」

 パッと手を離してうちわで口元を隠す。花岡君のうちわには『隣にピースして』と書いてあり、吹き出す。

「もう! 花岡君ったら」

「ほら会場見渡しても男性は少ないですし、ファンサ貰える確率高そうでしょ?」

 わたしも振り返り満員御礼の会場を見やる。改めてこの場に来れた偶然を噛み締め、胸へ手を当てた。

 ーーさぁ、もうすぐコンサートが始まる。   

 期待が最高潮に高まるわたしに花岡君はペンライトを差し出す。
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