外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する


「ねぇねぇねぇ! わたしに向けてピースしてくれたよね?」

 コンサートが終わり、興奮冷めやらぬ状態で居酒屋へ立ち寄る。席に通されるや否や、ビールを流し込めばご機嫌な気分に拍車がかかった。

「亮太、わたしにピースしたよね?」

「……えぇ、してました」

「でしょ〜? あぁ、亮太に認知されたわ、わたし」

「……」

「花岡君ももっと飲んで! ここはわたしがご馳走するからさ!」

 大衆居酒屋に花岡君は場違いと承知しているものの、コンサート中に歓声を上げたり合わせて歌った姿を見せた以上、素を出すのを躊躇う理由はない。
 メニュー表を押し付けてジョッキを煽る。

「先輩、お酒はよく飲むんですか?」

「毎日じゃないよ。飲むのは嫌いじゃないかな」

「会社の人と飲みに行ったり?」

「忘年会には顔を出すけど、個人的には行かない。同僚と仲良くなり過ぎるのも宜しくないし、そもそもシフトが合わないっていうのもある」

 置いたままの花岡君のグラスと乾杯。

「花岡君はバーとかで飲むの?」

「えぇ、馴染みのバーがありまして」

 注文方法が分からないのか、彼は周りの席を伺う。会社帰りのサラリーマンでごった返す店内に戸惑いを隠せていない。

「ん、わたしが頼むよ。何が食べたいの?」

「それじゃあ、だし巻き玉子を頂きます」

「了解。すいませーん! だし巻き玉子下さい!」

 手を上げてスタッフを呼ぶと、彼はびくつく。
 その反応が面白くてニヤニヤしてしまう。
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