外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「こちらこそ迷惑を掛けてごめんなさい。記憶が飛んじゃって……」

「迷惑なんて、そんな。お互い、飲み過ぎてしまいましたね」

「うん」

 気まずさが込み上げ、襟元を弄る。

「あ、あの! 同意なく部屋へお連れしましたが妙な事はしてません! 酔った女性に手を出すなどあってはならないです!」

 花岡君が乗り出してきた。

「そこは疑ってない、信じてる。ところでわたしの鞄を知らないかな?」

「先輩の鞄は玄関にあると思います。取ってきます」

「待って! 取りに行かなくていいよ。そのまま帰るね」

 壁時計を確認、ただいま深夜2時。タクシーを拾ってアパートへ戻ろう。謝罪はまた改めてという事で。

「ーーその、兄の件は聞かないんですか?」

「知られたくなかったんじゃないの?」

 ふぅ、息を吐きつつ花岡君は浮かせた腰を再び下ろす。

「はい、公表してません。アイドルが身内、それも兄弟ともなれば気苦労が絶えないものですから」

 Crockettには熱狂的なファンも多く、その一部が応援するうち距離感を見誤り、ストーカー被害として事件化している。

(メディアで大きく取り上げられたケースが亮太だった。花岡君にも影響があっただろうな)

「誰にも話さない。約束するよ」
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